日本企業が世界を掴むブランド戦略とは?小山薫堂氏・佐藤可士和氏と楽天三木谷が議論!

情報の伝達がさらに高速化され、様々なモノがネットワークにつながり、低遅延でデータが送信される5G(第5世代移動通信システム)の時代が始まろうとしています。

国内のみならず海外とのコミュニケーションもさらに活性化していく社会において、企業のブランド戦略はどうなっていくのでしょうか?

今夏に楽天グループが開催した過去最大級のイベント「Rakuten Optimism 2019」の中で、日本企業が世界で生き残るためのブランド戦略について議論するセッション「世界を掴むブランド戦略」も行われました。

講演のスピーカーには、日本のメディア業界において放送作家として活躍し、その他にもジャンルを問わず様々なプロデュース活動を精力的に行う小山 薫堂氏、そして大手企業のデザインを数々と担当し国内のみならず世界的にもブランド拡大に貢献するクリエーターの佐藤 可士和氏、そして楽天会長兼社長の三木谷 浩史の3人が登壇しました。

世界に向けて日本ブランドをアピールし、日本企業が世界市場で生き残るためのブランディングとは?

パシフィコ横浜のホールが満席となったパネルディスカッションのハイライトを抜粋してお伝えします。


“自分の中でブランドっていうのが、よくわからなくなった”

ラジオに雑誌、そして数々の有名テレビ番組や商品、そしてジャンルを問わず様々な企画のプロデュースを手掛けた小山氏。なかでも熊本県のゆるキャラ「くまモン」は多くの人に親しまれていますが、実はそのゆるキャラの制作過程のなかブランドについての考え方に大きな迷いをもったことを小山氏は打ち明けました。

小山 薫堂:放送作家。1964年熊本県生まれ。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、これまでに「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「ニューデザインパラダイス」などのテレビ番組を数多く企画・構成。映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。 執筆活動のほか、熊本県地域プロジェクトアドバイザー、京都造形芸術大学副学長、下鴨茶寮主人、京都館館長などを務める。「くまモン」の生みの親でもある。


小山氏:「くまモン」で実は、自分の中でブランドっていうのがよく分かんなくなったんですよ。分かんなくなったというか。「くまモン」の第1号商品化ってなんだと思います?

三木谷:ぬいぐるみとかじゃなくて?

小山氏:ぬいぐるみとかですよね。普通、ブランドって隙のないものを作って、上からどうだと言わんばかりに降らせるように。教会でパイプオルガンが上にあって上から音をふってくることによって人の心を洗脳するように、そんなものがブランドだと僕は思っていました。欧米型という感じだと思うのですが、そんな中、「くまモン」の第一商品は仏壇ですよ。「くまモンの著作権をフリーでどうぞ使ってください。熊本県内みなさん、事業者の方どうぞ」と言って、一番最初に並んだ人が、仏具屋さんだったんですよ。それで仏壇なんですよ。 僕は熊本県のブランド課の人に「なんでこれから売り出していく商品の第1号が仏壇なのですか」って聞いたら、「いや断る理由がなかったとですよね」と言われました。こんなゆるくて、このブランド成功するわけないなと思ったんですけど、結局は成功しているんですよね。

佐藤氏:今でも日本型というか、世界では、欧米型のブランド戦略で上から降ってくるような統一型という話をしていたと思うんですけど、三木谷さんと僕もわりとそこのブランディングでどういうふうにやっていったらいいかといつも話していて。世界にいい見本もたくさんあるんだけど、日本は日本のやり方があるんじゃないかなという話もよくしていますよね。

三木谷:一番最初に楽天のブランドをどういう風に考えるかってときに「楽天市場」という小さな地方の商店を助けようというところから今は「Rakuten Fashion Week TOKYO」とかやっているわけじゃないですか。まさしく仏壇から変わっていったという話とすごく似てると思ったのですが、そこにくっつけても大丈夫なようなブランドって何だろう。金融商品もあるしタイヤキも売る。これを統一するブランドとは何だろう?と考えました。世界ではあんまり存在しないですよね。

小山氏:そうですね。1つは信用じゃないですか。顧客への信用があれば安心して買えるとか。そういうチェックは当然たくさん実施されているわけですよね。システムもそうですし。

三木谷:なるほど。ミッキーマウスとハローキティの話がそうですね。私はあだ名がミッキーなので皆さんもミッキーと呼んでください(笑)。

佐藤氏:三木谷さんと仕事をするようになって最初はやっぱり、次々といろんなことを持ってくるから、どうやってまとめようかなってすごく悩んで、僕なりにいろいろ考えて。しばらくして、こういうのどうですかと持っていったんです。例えば、欧米型のブランド戦略は、ディズニー型ミッキーマウスのように完全管理。完璧な仕組みの下にあって、それに対してハローキティってすごい面白いんです。ブランド戦略で確か、今はちょっとわからないですが、政治と暴力とエロに関することはNG。それ以外は基本OK。だからハイブランドでも使われているし、ご当地キティもできちゃうみたいな。それはすごい日本っぽいなと。ハローキティー型がいいんじゃないのと三木谷さんと話したことがあります。

小山氏:なるほど、それは「くまモン」も同じですね。バカラとかもやるし、ご当地のものもやるし、ある程度に管理はゆるいけれども、どこか共通している愛される力があるみたいな。それが結局ブランドにつながっているのはありますよね。

三木谷:でも今はヨーロッパのいわゆるハイブランド、例えばルイ・ヴィトンが村上(隆)さんのデザインを使ったり、なんとなく、ちょっと向こうも日本をチラ見してるというか、なんとなく気になっているというかそんな感じもするんですけど、どうですか?

佐藤氏:ハイブランドもやっぱりもともとはラグジュアリーなものだったのが、今思いっきりストリートに触れたりしてるわけじゃないですか。なんかこれだけ多様性と言われている中で日本はもともと八百万の神みたいな、そういう価値観がありますよね。それが我々が自然にやっているブランド戦略みたいなことに結びついているんだけど、それもすごく魅力的だなというように映っているのかもしれません。

日本ブランドだからこその強み

楽天を含め、日本の企業が世界に進出するデザインを手掛けてきた佐藤氏。日本のブランドが海外ブランドと渡り合う上で必要な要素や日本企業はヨーロッパブランドを真似て戦略をたてるべきかというテーマについて以下のように答えました。

佐藤 可士和:「SAMURAI」 クリエイティブディレクター 慶応義塾大学特別招聘教授。博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。近年は文化庁・文化交流使として日本の優れた商品、文化、技術、コンテンツなどを海外に広く発信していくことにも注力している。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。著書「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)ほか。


佐藤氏:ヨーロッパのブランド戦略の良いところは見習えばいいと思うのですが、僕は例えば楽天もユニクロもセブン-イレブンも日本の良いところが凝縮しているすごい会社というかブランドだと思っているので、そこはエッジにしようと思っています。楽天やユニクロのグローバル戦略を考えるときにはやはり「日本」のブランディングということを考えざるを得ない。我々日本人は何が強みなんだろうとか、どこの切り口を効かせたら、世界の人から魅力的に見えるだろうというのはすごい考えています。でも我々は感性の解像度はすごい高いと思いますよ。すごくデリケートなことを大事に持っているし、そのクオリティーというものに対して、すごく理解しているというか肌で感じている、そういう感性がある。だからエッジにしていくのであれば、そこしかないのかなと思っています。

三木谷:一方、僕らからするとやっぱりブランドってのはちょっとサプライズが必要。例えば楽天が「FCバルセロナ」のメインスポンサーになったみたいな振り切りがいるわけじゃないですか。薫堂さんはどうですか。

小山氏:僕がすごいと思ったのが、以前タクシーに乗ったんですよ。タクシーの運転手さんに「楽天はすごいですよね」と聞かれたんです。「イーグルスは昨日勝ったね」とか。そういうのを聞いたときにやっぱり球団を持つとか、そういうファンがいる組織を持つということの大きさ、深さは感じましたね。球団を持ったことによって、より広く届いたと思うんですよ。あとは安心感が生まれましたよね。

佐藤氏:僕、まさにその野球への参入の時に一緒に横に座って打ち合わせをしていたんです。「野球やろうと思うんだけどどう?」と(三木谷に)言われた。いろいろな仕事をしてきましたが、すごくびっくりした瞬間でした。あんなにダイナミックな判断できるんだと思って、僕もいろいろマーケティングやデザインをしてきた人生の中でもすごく印象的な出来事でした。たった1年で知名度が一気に上がって、ああいうことが起きる、これはなかなかないなと。メディアに対する考え方も変わりました。

三木谷:僕はブランドの考え方っていうのは3つあります。1つはエンドカスタマーの消費者であったりお客さん。もう1つは取引先で、もう1つは従業員と思っていて、消費者に対するブランディングというのは取引先と従業員に対するブランディングがあって初めて成り立つのではないかな。そのためにも単なるロゴマークだけでなくて、ロゴマークに意味をもたせるというふうに考えています。

佐藤氏:やっぱりロゴって理念が凝縮したもので、そこに最終的に形を与えるというものなので、理念が大事なのです。だから三木谷さんとずっと話をしているのは、従業員や消費者に対してもその理念を共有できるか、どう共有できるのかということが重要だと思います。

来る新時代、ブランディングの重要性について

最後に会場の参加者たちへ向けて、ロゴやブランディングの重要性についてそれぞれの視点からメッセージを送り、日本を代表するクリエーター2人と三木谷の講演は終了しました。


佐藤氏:ブランドの成り立ちやあり方はそれぞれ違うので、そこにどういう理念を持つのも、ストーリーを持つのも自由。それがユニークな方がいいですよね。いずれにしても、ブランドの理念やコンセプトというものが最も大切で、それをどうやってカタチにしていくかということがブランド戦略です。だからあまりデザインばかりを先行して考えてしまうと本質からはずれていってしまいます。先ほど言ったプロモーションとブランディングのバランスも大事ですよね。それがどっちかに偏っていてもダメだと思うので、まずはぜひ皆さんのストーリーを作っていくことを大切にしていただけたらと思います。

小山氏:僕がいつも心のお守りにしているのがありまして、それは日本で最初の天気予報なんですよ。1884年だったと思うんですが。今の天気予報ってものすごく正確じゃないですか。横浜のピンポイント天気予報もありますし。日本で最初に発令された天気予報って、「全国一般風ノ向キハ定リナシ 天気ハ変ワリ易シ 但シ雨天勝チ」(全国一般風の向きは定まりなし 天候は変わりやすし ただし雨がち)。この3行で日本全国の天気を言ったんです。

これって今から見ると稚拙だけど、当時はきっと一生懸命やってそれくらいしかできなかったと思います。たぶん何か新しいことに挑戦する時ってこんな稚拙かもしれないけれども、自分が稚拙なものを作ったとしても、自分が一歩を踏み出したから他の誰かがそこに知恵を足していって遠い未来にすごくいいものができるんじゃないかと思う。だからどんなに稚拙でもやってみる、挑戦してみる価値はあるなと思っておりまして、「湯道*」 もそれを励みにとりあえず一歩踏み出しとけば200年後に何かなっているんじゃないかなと。そういう歴史の中で自分の生かされている間に何をすべきかというのを考えると失敗してもちょっと楽になるのかなという気がします。

*「湯道」とは、小山薫堂が提唱する、究極の湯の道です。 (HPより抜粋)

三木谷:もともと「楽天市場」って本当に当時はデジタルなんとかや、なんとかドットコムっていうのがメインだった時代にいかにも日本という「楽天市場」という名前ではじめました。そして今日のテーマは「オプティミズム」(楽天主義)ということで、やっぱり本当に新しいことがどんどん起きます。5G時代がきます、日中貿易戦争が始まる、日韓関係は悪くなる。北朝鮮とどうなるのかみたいな不安要素がいっぱある中において、やはり日本人の日本社会の特性であります、この「楽天主義」というものを実現してみんながハッピーにできるようなプラットフォームになっていければいいかなと思います。一方でやっぱり技術も本当に世界で凄まじい進歩をしているので、そこは楽天も5Gも世界最先端のことをやりますけれど、リスクを取って、どんどんやっていって皆さんのお役に立てれば思っています。

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