【楽天デザインラボの挑戦】サービスの課題にデザインから切り込む

今回紹介するのは楽天のデザイン組織「楽天デザインラボ」(以下、デザインラボ)の取り組み。楽天のブランディングやサービスの課題に、デザインという切り口から向き合うため、2018年に発足した組織です。

当ブログでは、これまでもデザインラボで働く従業員の仕事を紹介してきましたが、今回は実際にサービスを運営している事業部と、どのように連携し、課題を解決しているのか、実例を交えながら解き明かしていきます。


「母の日」で連携。デザインラボと「楽天市場」のコラボレーション

「楽天市場」では今年の「母の日」に、ユーザーが対象店舗で購入したギフトを、花束がデザインされたオリジナルのラッピング袋に入れてお届けする「Rakuten Mother’s Day Wrapping」という施策を実施しました。

企画段階からデザインラボと連携し創り上げたと聞き、コラボレーションの経緯や施策における工夫、社内のデザイン組織ならではの進め方について、3名の担当者に話を聞きました。


まず1人目は、「楽天市場」マーケティング部でシーズナルマーケティングを担当しているNatsumiさん。デザインラボとのコラボレーションについて、事業側からの視点でお話いただきました。

「ギフトといえば楽天」と思ってもらうために。デザインを活用した課題解決

――はじめに、デザインラボと協働することになった経緯を教えてください。

Natsumi: 私の所属するシーズナルマーケティンググループでは、季節や行事に合わせた施策を企画し、より多くのユーザーに楽しみながら「楽天市場」で商品やギフトを購入いただくことをミッションとしています。

「母の日」については、各店舗様が多様なギフトを販売していますが、ラッピングの有無や種類、価格など、店舗様や商品によって発送時の対応は異なります。ギフト購入時に出店店舗共通のサービスが存在しないことから、結果として「楽天市場」でのギフト購入を断念するユーザーも一部存在するということが分かっていました。

そこで今回、複数の店舗様にご協力いただきながら、対象店舗で購入した商品に対して、共通のオリジナルギフトラッピングサービスを無料で提供することで、ユーザーにより分かりやすく、気軽にギフトを購入していただけるよう取り組みました。目指すのは、多くのユーザーに「ギフトといえば楽天」と思ってもらい、手軽に商品を購入いただける仕掛けづくりです。

しかし、チームにはデザインを専門としているメンバーはいません。そこで、社内のデザイン組織である、デザインラボに企画趣旨や課題感を説明し、ラッピング袋のデザイン案について相談しました。

――外部の代理店やデザイン会社ではなく、デザインラボに相談したのはなぜですか?

Natsumi: 「ギフトといえば楽天」というイメージを作ることは、楽天全体のブランドイメージの醸成にもつながります。その点、デザインラボは、サービスロゴやアプリアイコン、「楽天モバイル」の店舗デザインなど、日頃から楽天のブランドイメージを形作る様々なクリエイティブに携わっています。また、ラッピング袋を作るのは今回初の試みでしたが、共通の価値観や課題感を持った従業員同士であるからこそ生まれるアイデアやスピード感があると考えました。

「もらった時に贈り手の心が届く」デザインを。

――今回、最終的には「花束がデザインされた」ラッピング袋を用意しましたが、完成に至るまでに、どんな話し合いがあったのでしょうか。

Natsumi: 最初はラッピングと言っても、「母の日」に特化したものではなく、誕生日やクリスマスなどその他の行事でも汎用的に使えるものを作るというアイデアもありました。同時に、今回の施策で最も大切にしていたのは、「もらった時に贈り手の心が届く」ということです。 そんな時、デザインラボに作成いただいた複数のデザイン案の中に、「母の日」の花束に見立てた案があり、これこそ、「もらって嬉しい!」「このラッピングで贈りたい!」とお客様に思っていただけるものだと確信し、汎用的なものではなく、「母の日」に特化したデザインを採用することになりました。

ギフトのサイズに合わせて3種類のラッピング袋を用意。
赤いリボンで花束の持ち手も再現されたラッピングは、まるで本物の花束のよう!

Natsumi: また、通常だと特集サイトの作成も自分たちのチームで行っていますが、今回はラッピングの世界観を大事にしたかったので、サイトのデザインもデザインラボに作成してもらいました。これにより、「もらった時に贈り手の心が届く」体験をより強固なものとすることができたと思います。こうした柔軟な連携も、社内組織同士だから実現できたことだと実感しています。

――実際に利用したお客様や参加店舗様の反応はいかがでしたか?

Natsumi: 初の試みということもありで、大々的に宣伝していたわけではなかったので、よく楽天を利用いただいている方に響く施策となるかなと予想していたのですが、意外にも、普段あまり楽天を利用されていない方にも響き、良い反応も得られました。

また、参加いただいた店舗様の多くから、次も参加したいというお声をいただきました。一方で、商品の形状によっては、ラッピング袋よりも箱のほうが梱包しやすいなどの意見もいただきました。本ラッピング施策は、今年のクリスマスやお歳暮でも予定しています。いただいたご意見も取り入れ改善しながら、対象行事や参加店舗数を拡大し、「楽天といえばギフト」というイメージを引き続き醸成していきたいです。その際にはやはり、デザインという切り口で、私たちの考えを昇華し、具現化してくれるデザインラボの力が、とても重要になってくると思います。


続いて話を聞いたのは、今回のラッピング施策に携わったデザインラボのNahoさん。施策について、デザイナーとしての視点でお話しいただきました。

ラッピング袋に印刷する花束はプロのフローリストの協力も得て、実物を撮影!

――今回の「花束がデザインされたオリジナルのラッピング袋」というアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか。

Naho: お題をいただいた段階では、汎用的に使えるものをということでしたが、「自分自身がもらったときに嬉しいと思うかどうか」という点に重点を置き、様々なアイデアを考えました。直近の行事が「母の日」だったこともあり、その象徴でもある花束に見立てた特化型のデザインを含めて提案したところ採用されました。

――デザインを形にしていくにあたり、工夫した・苦労した点があれば教えてください。

Naho: イラスト、または写真なのか、どのような花束のデザインがベストかについては、入稿までに何種類ものデザインプロトタイプを制作し、Natsumiさんと議論を重ねました。その結果、ラッピングとしてインパクトのある写真で進行することになりました。3種類のサイズで展開することはNatsumiさんから伺っていたので、せっかくなら実寸大で作った花束を撮影し、袋にプリントしようという話になりました。

花束のアレンジメントには、プロのフローリストさんにも入っていただきました。定番のカーネーションはもちろん、施策のターゲット層も踏まえながら、可愛く色鮮やかでありながらも、洗練された印象を感じてもらえるよう意識して仕上げ、それをカメラマンに撮影していただきました。

花束の撮影風景

Naho: また、袋の先をリボンで結んだ際に、ちゃんと花束に見えるよう調整を重ねました。実際に袋に印刷して、商品を入れてみては、花のボリュームや茎の長さなどを調整するという作業を繰り返し、ちょうど良いバランスを探りました。

ラッピング袋の素材にもこだわっています。素材によっては、見た目の光沢が強すぎて安っぽく見えてしまったり・・・。印刷したお花がきれいに見えることはもちろん、触った時の質感などギフトとして贈るものとして相応しい素材を印刷会社にも協力いただきながら選定しました。

デザインラボでは、作成したデザインを最終的なアウトプットと同じ実寸大で再現し、検証する作業を大切にしており、毎回デザイナーとユーザーの視点を行き来しながら、最終的なクリエイティブを創り上げています。

社内組織同士だからこそ生まれるスピード感と綿密なコミュニケーション

――デザイナーとして、社内組織同士で協働することのメリットはどのようなところに感じますか?

Naho: 一番感じるのはコミュニケーションのスピード感です。ひとつのデザインを創り上げるのにはたくさんの時間を要するので、意思疎通があまりできず完成してから「こうじゃない」となると、当然また多くの時間がかかることになります。

社内同士であれば、「方向性は間違っていないか」、「この修正でオーダーを満たしているか」など、気軽にチャットなどでやりとりすることができるので、非常に進行しやすく、また「一緒に創り出している」感覚も強く、やりがいを感じます。 今回もNatsumiさんとはまめに連絡を取り合いながら方向性や進捗の確認を行い、企画から店舗様への呼びかけ、最終的なラッピング袋の納品まで、初めての試みでしたが半年掛からずに進行できました。


最後に、デザインラボのマネージャーを務めるHiroさんに、デザインラボによる取り組みの可能性や、今後の展望について伺いました。

常に挑戦心を忘れないクリエイティブ集団であることが大切

――改めて、デザインラボが取り組む分野について教えてください。

Hiro: 分野としては大きく2つあります。ひとつは、ロゴやアプリアイコンの作成など、グループ横断的なブランドアセットを作ることで、楽天のブランディングに貢献することです。デザインラボが中心となり開発した楽天のオリジナルフォント「楽天フォント」は、先日世界3大デザイン賞のひとつともいわれる「iFDESIGN AWARD 2021」を受賞しました。インターネットビジネスを中心に展開する楽天にとっては、ユーザーが触れるサービスページのフォントひとつも楽天のブランドを形作る要素となります。

もうひとつは、デザインを通じた事業への貢献です。今回の「母の日」の施策はまさにこれに該当します。NatsumiさんやNahoさんからもあったように、社内組織だからこそ、依頼の背景にある課題に対してより深い理解のもと発揮できるパフォーマンスがあります。

今回のように初の試みであっても、インハウスなのでコストを気にせず、事業とトライ&エラーを繰り返しながら、デザインを世の中に送り出すことができますし、デザインラボは、日々様々なグループサービスの案件に携わっているので、他事業の成功事例を横展開することもでき、ビジネスの成長を加速させるサポートができると考えています。

――クリエイティブを提案する際に、意識していることはありますか?

Hiro: 及第点のデザインを作るのではなく、社内組織だからこそ常にチャレンジングで面白いクリエイティブを目指すことを意識しています。

そのためには、日々デザインに対する挑戦心や遊び心を忘れないクリエイティブ集団であることが大切だと考えています。デザインラボでは、Instagramアカウント(@rakuten_design_lab)を開設し、所属デザイナー達に自由な発想のもと作品を発表してもらっています。

インスタグラムの投稿例。様々な形で楽天ロゴを表現。クッキーやお餅はもちろん食べられます!

また、長くデザイナーをやっていると、漠然と「良いデザインを作る」という思考に陥ってしまいがちですが、デザインラボではブランドとデザインの相関関係を測るユーザー調査も行っています。デザインに対する好意度が向上すると、楽天のブランド好意度も上昇するであろうという相関関係も確認できており、今後もこうした調査を定期的に実施しながら、ユーザーに寄り添ったデザインかつ、斬新なアイデアの創出を目指していければと思っています!

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