三木谷が語ったAIを使いこなすことの重要性―「楽天新春カンファレンス2025」

2025年1月31日に開催した、「楽天市場」出店店舗の皆様に向けたイベント「楽天新春カンファレンス」。本イベントは、「楽天市場」における戦略を共有するとともに、店舗運営に役立つ学びや店舗同士の交流を深めていただくためにご活用いただいています。東京の現地参加・オンライン視聴と合わせて3万名以上にご参加いただき、今年も大きな賑わいをみせました。
オープニングの基調講演では三木谷 浩史が、AIの活用によって「楽天市場」の利便性を向上させ、店舗の業務効率アップや売上向上につなげていくことを強調。また、「楽天モバイル」の成長が、「楽天市場」や「楽天エコシステム」全体の拡大を後押しすると熱く語りました。
本記事では、基調講演の内容をダイジェスト版にてお届けします。
楽天が目指す「トリプル20」。その鍵を握る独自のAI活用戦略

皆さんこんにちは。今年も「楽天新春カンファレンス」にお集まりいただきありがとうございます。去年は、元旦の能登半島での大地震から始まり、様々な災害もあったり、またアメリカでは新しい大統領が生まれ、日本だけではなく世界で大変なことが起こりました。インターネットの影響度・重要性がより大きくなり、インターネットやソーシャルメディアがなかったら大統領選も別の結果になっていたかもしれません。その中でもAI(人工知能)がさらに重要になってきています。
近年、AIが急速に進化してきており、その理由の一つにCPUからGPUへの移行があります。GPUを活用することで、計算能力が飛躍的に向上しました。AIはもともと「予測AI」というのが2000年頃に始まり、2022年頃からは「生成AI」と呼ばれる汎用型AIが登場し、そして今年から本格的に普及するとされている「AIエージェント」へと進化してきています。「AIエージェント」は、推薦したり調べたりするだけでなく、代理でアポイントを取ったり、ショッピングをしてくれたりと、秘書のような機能を果たしてくれると期待されています。
今後、AIがどんどん発展していくことで、人間の仕事は奪われてしまうのでしょうか。人間には「共感できる」というAIにはない複雑な感情があり、同じような商品であっても店長さんへの共感や商品への思い入れで買うということがあり、人間にしかできないこともあります。一方、AIを効果的に活用できない企業や組織、個人は、今後の厳しい競争環境に対応するのが難しくなってくることは間違いないでしょう。
楽天では、世界から集めた有能なエンジニアが様々なAIの開発を行っています。例えば、楽天では、OpenAIの『ChatGPT』で使われているものよりも専門的な領域に特化したAIの大規模言語モデル(注)である「Rakuten AI 7B」の独自開発もしています。AIの進化をビジネスに取り入れるために、楽天では「トリプル20」という目標を掲げています。マーケティング効率の20%向上、オペレーション効率の20%向上、クライアント効率、つまり皆さんの効率を20%向上させていくというものです。
そのために、楽天ではAIを全従業員が活用できるようにし、その知見を「楽天市場」の全店舗さんにも展開し、AIを使いこなしていただけるようにしていきたいと考えています。現時点では、楽天でAIを活用している従業員は3万人、毎日利用している従業員は8,000人を超えます。また、「楽天モバイル」では法人向け生成AIサービス「Rakuten AI for Business」の提供を開始しており、営業活動や事務業務の効率化、マーケティングの最適化など、ビジネスにおける幅広い用途で活用してもらうことを目指しています。
(注)大量のテキストデータをもとに学習した人工知能プログラム


AIで進化する「楽天市場」のショッピング体験。その先にある成長
現在、「楽天市場」では、意味をくみ取って検索する意味検索とも呼べる「セマンティック検索」機能を提供しています。「寒い日に飲む美味しいお酒が欲しい」「北海道で着るダウンジャケットが欲しい」といった、より自然な検索ワードで最適な結果が得られるようになり、意味検索によって流通総額は5.3%アップしました。
また、「楽天市場」や一部店舗内で提供しているレコメンデーション機能にAIを活用することで、ユーザーの購買体験が向上し、売り上げは約60%増加しました。「楽天市場」の広告もAIを活用することでパフォーマンスが向上し、より効果的なターゲティングが可能になっています。例えば、男性である私が検索キーワードとして「ブラシ」と検索すれば、女性向けの美容ブラシではなく、機能的なブラシや靴磨き用のブラシが優先的に表示されます。このように、AIが検索の意図を読み取り、最適な商品を提案することで、より効果的なショッピング体験を提供できるようになっているのです。

AI活用で店舗さんの作業効率が向上
「楽天市場」においては、店舗さんに特化して開発した「RMS AIアシスタント β版」を昨年3月から提供開始し、店舗運営の支援をさせていただいていますが、すでに3万を超える店舗さんにご活用いただいています。では、店舗の皆さんが、具体的にどのようにAIを活用されているのかを少しご紹介できればと思います。
例えば、あるショップでは、AIを活用することで商品画像の作成時間が10分から1分に短縮されました。これにより、リソースの90%を削減し、新規商品登録やマーケティングに注力できるようになりました。また、別の店舗さんでは、ショップカルテというデータ分析機能により、60分掛かっていた報告作成が10分で済むようになり、業務の効率化が実現しています。
別の店舗さんでは、どの商品が最も目立ったのか、どのバナーにクリックが集まったのかをAIが分析し、最適な広告配置や商品組み合わせを自動で作成されています。これによって、広告のパフォーマンスは1.5倍に上がりました。また、「楽天スーパーSALE」などの実績についてAIで売れ筋商品を分析し、適切なプロモーション戦略を立てた結果、流通総額が77%増加し、販売件数も76%増加した店舗さんもいらっしゃいます。

「楽天モバイル」で、通信と経済の未来を加速する
最近は、物価が上昇し、生活コストが増大しています。例えば、2020年と比べて食料品に掛かる費用は20.4%、光熱費は11.1%上昇しています。一方、通信費だけは28%減少しています(注)。これは、「楽天モバイル」の参入による影響だと考えられます。これによって、物価高の中においても有効にお金を使うことができるのだと思っています。
(注): 総務省「2020年基準 消費者物価指数」2024年(令和6年)10月分より
実際、「楽天モバイル」のご契約者様は、「楽天市場」での購買額が平均で約50%増加する傾向があります。このシナジーを生かし、昨年12月に開催した「楽天モバイル 最強感謝祭」は大成功を収めました。「楽天モバイル」のご契約者様は、通常より1万3,000円以上多く購入するなど、「楽天市場」への貢献度が非常に高いことが分かりました。今後、このイベントを3カ月に1回開催する予定です。

今回の講演のポイントは大きく3つです。楽天と「楽天市場」の事業者の皆様は一心同体であること。そして、これからはAIを使いこなしていくことが重要だということ。企業の規模や年齢は理由になりません。数十年前と異なり、今ではワープロを使えない人はほとんどいません。AIも同じように、今後は誰もが活用する技術となるでしょう。最後は、「楽天モバイル」の普及が「楽天市場」の流通総額を大幅に押し上げるということ。だからこそ、私たちはこの「楽天モバイル」事業を強く推進しています。
日本を元気にする原動力の第一人者は、「楽天市場」の店舗の皆さんであり、楽天グループだというふうに革新しています。日本をどんどん盛り上げていけるように一緒に頑張っていきたいと思っておりますので、今後もぜひどうぞよろしくお願いします。ご清聴どうもありがとうございました。
