【Rakuten AIの裏側】シャイメイ・シャーが語る楽天のAI変革の推進

※本記事は、以下の「Rakuten.Today(英語版)」で掲載された記事を抄訳したものです。
https://rakuten.today/blog/inside-rakuten-ai-shaimay-shah-on-driving-rakutens-ai-transformation.html
本シリーズでは、楽天のAI開発に携わる責任者や、「AIの民主化」を目指す楽天のビジョンを推進するキーパーソンに話を聞き、AIという革新的なテクノロジーにまつわる様々なトピックについて深く語っていただきます。過去のブログはこちらからご覧いただけます。
また、楽天グループのYouTubeチャンネルでは、「Rakuten AIの裏側シリーズ」として本記事を含むインタビュー動画を公開していますので、ぜひご視聴ください。
第3回目となる今回は、楽天グループAI & Dataディビジョンのデータサイエンティストであるシャイメイ・シャーに話を聞きました。楽天は現在、日々の業務プロセスにAIを組み込むことで業務の進め方や働き方を変革しようとするプロジェクトを進めています。シャイメイはその変革の中心人物の一人として、社内業務と外部へのサービス提供のあり方を大きく変える取り組みを推進しています。
シャイメイ「生成AIの発展に伴い、私のいる部署はデータサイエンスからAIを扱う部門へと次第に変化してきました。今ではAI for Business部として、様々な企業向けAI のプロジェクトを進めています。部内における私の役割も少しずつ変わってきました。当初は純粋に技術担当としてプログラミングなどが中心だったのですが、そのうちにプロダクト管理や、生成AIの利用推進や効果的な使い方の啓発といった、社内外へのアプローチを行うアウトリーチ活動にも携わるようになりました」。
楽天での仕事は、現代に起こる新たなAIの波が生み出すビジネスの可能性を探ることができる、またとないチャンスとなっているそうです。
まず社内でAIを受け入れる

シャイメイの所属部署は、当初は主に営業部門へのデータ駆動型インサイトの提供を担当していましたが、生成AIの台頭を機に戦略的な転換を図りました。
楽天のAI導入アプローチは二つの要素から構成されています。それは、社内でテスト導入し、社外へと展開します。まず社内で、会議の議事録作成やチャット、メールなどの日常的な業務を自動化する従業員向けのAIツール「Rakuten AI for Rakutenians」を開発しました。楽天グループ内をテストの場として利用することで、高い信頼性と直感的な操作のしやすさを共に備えたAIソリューションを実現しています。
一方、テスト段階で得た教訓を活かし、社外においては、業種を問わず効率性の向上につながる実用的なAIアプリケーションを楽天モバイルの法人向け生成AIサービス「Rakuten AI for Business」としてお客様に提供しています。この戦略により、楽天はAIを多様なビジネス環境に統合する模範的な存在としての地位を確立します。
シャイメイ「楽天は、クライアント企業の生産性、マーケティング効率、オペレーション効率をそれぞれ20%向上させる「トリプル20」という目標を掲げています。しかし、まず私たちがそれを達成できなければ、お客様に同じ成果を提供することはできません。『Rakuten AI for Rakutenians』の目標は、他者をエンパワーメントするにはまず自らをエンパワーメントしなければならないという考え方から生まれています」。
シャイメイは、当初「Rakuten AI for Rakutenians」を、一般的な外部ツールの代わりとなる低コストのツールとしか捉えていませんでした。しかし、このプロジェクトははるかに意欲的な取り組みへと進化しました。
あらゆるユースケースに対応するカスタムAI

楽天の戦略にみられる特徴のひとつは、アクセスのしやすさを重視していることです。開発職以外のプログラミングの専門知識がない従業員もAIアプリケーションをカスタマイズして作成できるようになりました。SQLクエリの自動化や複雑な文書の要約など、各チームごとの課題を自分たちで対処できるようになっています。
シャイメイ「会議の要約作成や営業研修など、面白いアプリケーションが次々に作成されています。当社の従業員は、カスタムAI作成の機能を使って誰でも自分だけのAIを作成したり、プロンプトを作ったり、インターネット検索やWikipedia検索、文書アップロードなどのツールを追加したりできるようになりました。営業やマーケティング、財務など、多くのチームが外部にアップロードするわけにはいかないけれども、アップロードしてAIを使って活用したい知識を持っています」
「AIの民主化」は、業務の効率化を促進するだけでなく、継続的な改善とイノベーションを共有する風土の醸成も促しています。この中核にあるのが、共有化です。シャイメイは次のように話します。「問題解決のためのソリューションを誰かが作成したら、他の部署でも同様にニーズがあるはずだと考えています。ですから、カスタムAIを共有可能にしました。社内でも特に人気のあるカスタムAIは約3,000人のユーザーに利用されています。このような地道な検証の仕方を、「Rakuten AI for Business」にも反映していきたいですね」。
AIの成長への種をまく

楽天のAIへの取り組みが組織文化に影響を及ぼしていることを、シャイメイは目の当たりにしてきました。
「当初、 『Rakuten AI for Rakutenians』を使い始めた多くの部署は、生成AIに関する知識がほとんどありませんでした。しかし、このAIツールに馴染んでいくにつれて、少人数のチームをつくってお互いに教え合うようになりました。また、複数の部署において、生成AIの使い方を理解した熱心な従業員が進んで他の人に教える姿を目にしました。新卒の従業員もいれば役員もいましたが、中には一番若手の従業員が部署全員に教えていることもありました」
こうした部署の多くは、各自の目的に合わせてRakuten AIに磨きをかけています。
シャイメイ「6、7カ月経つと、そうした部署は既存の 『Rakuten AI for Rakutenians』が提供する範囲を超えて、AIを利用した業務の改革に取り組み始めました。これは、従業員一人ひとりがRakuten AIで何が実現できるかを目の当たりにしたからです。そして、改めて業務に疑問を投げかけるようになりました。この会議やプロセスは本当に必要なのか、それをAIに置き換えるにはどうすればいいか、AIは課題解決に役立つのか、と考えるようになりました。 『Rakuten AI for Rakutenians』は、AI活用の『アイデアの種』としての役割を果たしたわけです」。
将来に向けたビジョン:AIを「第二の脳」に

将来的には、AIが人間の能力を拡大する一種の認知拡張――すなわち「第二の脳」――として機能する未来をシャイメイは思い描いています。
「誰だって自分だけのAIが欲しいよね、とよく冗談で話します。私自身もそうです。名前は『ShaimAI』。私の日々の状況を理解して、メールの返事を下書きしたり、チャットを要約したり、バックグラウンドで第二の脳として働いて、テキストメッセージや会議、プログラミングされたコード、文書から文脈を把握してくれる、そんなAIがあればいいなと思います」。
このビジョンを実現するために、シャイメイは楽天が現在直面しているAI関連の課題克服に全力を注いでいます。目標ははっきりとしています。実際のアクションにつながるインサイトを提供し、人間の生産性を高めてくれるAIを開発することです。
開発のいちばん面白い段階は、まだこれからだとシャイメイは考えています。
シャイメイ「私にとって一番のお気に入りアプリケーションはまだできていません。 『Rakuten AI for Rakutenians』 が会社全体にどんな複合的な作用を及ぼしていくのかが楽しみです。今はまだ初期段階。大木に成長していくのはこれからです」。
現代の労働者にとって実用的なツールとしてのAI

実行力と、実用的なKPI(重要業績評価指標)を重視することで、楽天は、AIを単なる未来の概念ではなく、現代の労働者にとって実用的ツールとして証明しようとしています。社内でテストしたAIを社外へ展開することで、Rakuten AIの恩恵は即効性があり、あらゆる規模の企業にとって広範囲に有益であることを実証しています。
生成AIが急速に進化する時代において、楽天はイノベーションの新たな基準を確立しようとしています。日常業務を効率化し、非効率を解消しながら、新たな可能性を再構築し、実現できる環境を育てています。