Zoom×楽天、コロナ禍で人々をつないだテクノロジーの開発者が考える「幸福」とは?
昨年開催した、楽天グループとして最大規模のイベント「Rakuten Optimism 2021」。その中から今回、Zoom Video Communications 創業者 兼 CEOのエリック・S・ユアン氏と、楽天グループ株式会社 副社長執行役員 グループエクゼクティブヴァイスプレジデントCIO&CISOである平井康文が登壇した「職場コミュニケーションの革命」をテーマにしたセッションをピックアップ。
本記事では、Zoomの設立、テクノロジー、職場環境の進化や従業員の幸福についてなど、幅広いトピックについて語り合ったセッションの内容を抄訳してレポートします。
インターネットの可能性を信じ、起業家の道へ
中国の泰安市出身のユアン氏が、起業家としてのインスピレーションを初めて受けたのは1994年にビル・ゲイツ氏の講演会に出席したときでした。講演を聞き、インターネットの可能性に気づいた彼は、アメリカに移住してキャリアを積む決意をします。
8回ものビザ申請却下を経た後、9回目で申請が通り、2007年にシスコシステムズが買収したWebExに入社。同社で優れた業績を収めたユアン氏は、2011年に独自のコミュニケーションプラットフォームの開発に乗り出し、その2年後にZoomを発表しました。
ユアン氏はそのプラットフォーム開発において、「使いやすさ」と「信頼性」に焦点を当てたコミュニケーションプラットフォームの構築を目指したこと、そして他社製品との違いについて次のように説明しました。
「音声や静止画ではなく動画の精度にこだわるとともに、クラウドファースト(注)の技術を採用しているため、どのデバイスを使ってどこから参加しても、Zoomは他製品より優れたクオリティを常に提供することができます。非常に使いやすいツールなので、慣れるのに苦労することもありません。ユーザーに快適なビデオ通信体験を徹底して提供することが私たちの目標なのです」
(注)インフラ構築やアプリケーション開発などを独自に行うのではなく、事業者が提供するパブリッククラウドサービスであるSaaSやIaaSなどを利用することを第一に考えること。
ハイブリッドワークで最も重要なものは「信頼」
2020年、世界中の企業は新型コロナウイルス感染症という未曾有の事態への対応を急ピッチで進めてきました。以降、数多くの企業では在宅勤務へシフトするなど、デジタル化は一層加速することとなりました。
コロナ禍においてZoomは世界中のデジタル通信に影響を与えました。同社の従業員も世界中の人々と同様にリモートワークにいち早く適応し、新しい生活様式に順応しなければなりませんでした。一方、コロナ禍の在宅勤務生活を経て、新しい生活様式に合わせた新たな働き方の必要性について気づいたことをユアン氏は次のように話します。
「生産性を失うことなく、従業員に在宅ワークしてもらっても大丈夫だ、ということに気付いた一方で、1年8カ月のwithコロナ生活を通じて、週5日の在宅勤務を持続させることには無理があると思いました。今後は、オフィス勤務が週2~3日で在宅勤務が2~3日といったハイブリッド型が定着する可能性が高いと思います。社員の働き方に柔軟性を与えるわけです。こうしたハイブリッドモデルを上手く使い、柔軟性を与えなければ、優秀な人材が他社に移ってしまうという懸念があるからです」とハイブリッドワークの必要性について語りました。
またユアン氏は、「仮想環境やハイブリッドワークの未来において、最も重要になるのは信頼です。同じオフィスにいない状況で、いかに従業員、パートナーや顧客を信頼できるか、ということですね」とリモートワークに関する自身の考えも話しました。
従業員の「幸せ」を中心に企業文化を構築する
職場環境のデジタル化を牽引するZoom。様々な生活シーンで利用され、オンラインコミュニケーションツールのマーケットリーダーへと躍進した理由は何だったのでしょうか?
動画の品質にこだわった、クラウドファーストのプラットフォーム開発や従業員への信頼など様々な要因が挙げられましたが、対談の終盤に、ユアン氏はZoomの成長において最大の鍵となったであろう個人的なエピソードを打ち明けました。
Zoomでは、「Deliver Happiness(幸福を届ける)」という 言葉を企業文化として掲げています。その理由について、ユアン氏は「若い頃の自分は、人生の目的が何なのか見当もつきませんでした。後に、それは幸せの追求だということに気付きました。そして、持続可能な幸福は他者を幸せにすることから始まります。だからこそ、皆の幸福が私たちの企業文化の一部となっているのです。私は毎日、従業員、お客様、パートナーをいかにして幸せにできるかについて考えています。彼らが幸せならば、私たちも幸せを感じることができるからです」
そして最後に、従業員の幸せに向き合う重要性について次のように説明しました。
「一人の従業員が幸せを感じていなかったとしましょう。オフィスに来て、電話でお客様に対応するとき、そのような人がお客様に幸せを提供できると思いますか?もちろん無理だと思います。ですから、毎朝起きたときに次のことを自問するようにと従業員に伝えています。『幸せを感じるか?感じないか?』 。もし感じるのなら出勤すること。そうでなければ出勤しなくていい。それでも給料は払いますが、何が起こったのかを話し合います。根本的な問題は何なのか?と。こうした問題はすべて解決する必要があります。仕事に行く前に自分が幸せな気持ちであることが重要なのです」
今では多くの人が当たり前のように使用しているZoomですが、その開発背景には、最先端のテクノロジーだけでなく、人々に幸せを提供するという思いがありました。
楽天でも「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」というミッションを掲げ、その実現に向けて挑戦を続けています。今後も、新たなイノベーションが私たちの生活にもたらす変化に期待していきたいと思います!
対談全編の模様は、こちらの動画にてご覧いただけます。