野口聡一氏×髙野芳行が考える「多様性のあるチームの作り方」
企業がより良いパフォーマンスを出すために必要だと言われている多様性。インバウンドや外国人労働者の受け入れなどの観点からも、現代の日本では重要な課題です。多様性のあるチームを作り、パフォーマンスを高めるにはどうすればいいのでしょうか?
8月に開催した楽天グループ最大級の体験イベント「Rakuten Optimism 2023」では、三度の宇宙滞在を経験した宇宙飛行士であり、合同会社未来圏代表でもある野口聡一氏が登壇。トラベル&モビリティ事業長を務める髙野芳行からの質問に答える形で、多様性の強み、多様性のあるチームのマネジメントなどついて語っていただきました。
本記事では、特別コンテンツ「多様性とチームビルディング」の内容を、ダイジェスト版としてご紹介します。こちらより動画のアーカイブ版もご覧いただくことができます(要無料登録)。
多様性が危機における多くの選択肢を用意してくれる
髙野: 多様性のあるチームは、最初はパフォーマンスが劣るものの、時間が経てば単一的なチームよりも高いパフォーマンスが出せるというデータがあります。とはいえ、そのことを理解しながらも取り組めていない企業、組織が多いのではと感じます。実際に多様性のあるチームで働かれてきた野口さんは、多様性についてどう考えられているのか教えてください。
野口: 本来、時代の変化に対応するための策の一つとして多様性があるのだと考えています。多様性は目的ではなく手段なんですね。もし同じことを繰り返すのであれば、単一的なチームの方が効率はいいはずです。しかし、複雑で曖昧な課題に対応するには多様なチームが必要です。宇宙飛行士の世界でも、ただ宇宙に行くだけでなく科学実験をしたり教育事業をしたりと、取り組むべき課題の複雑化に伴ってチームも多様になってきました。
髙野: 多様性のあるチームの方が、パフォーマンスが高くなる感覚はありますか?
野口: 例えば4人チームを全員アメリカの白人男性だけで揃えた場合、予測できる課題には素早く対応できるでしょう。しかし、思いもよらない課題が出た時に対応しにくいと思います。4人がそれぞれ違ったバックグラウンドや特性を持っていれば、たくさんの選択肢を出せますよね。実際に宇宙にいると予測できない問題が起きます。その時には、多様性によって選択肢が多くあることの効果を強く感じます。
髙野: メリットがわかったとしても、実際に多様性のある組織を作るのは難しいという問題もあるように思います。例えば、日本の大手企業の経営幹部は大抵50〜60代の男性です。その中に女性や外国人をポツンと入れても多様性の良さがあまり機能せずに組織力が上がらないケースがある気がします。
野口: 表面的に年齢層や性別や国籍の多様化を進めているものの、うまくいっていない会社は多いと僕も感じますね。ただ、それだけにとどまらず、多様性のあるチームをしっかりとマネージしていくことが成功の鍵だと思います。
足を引っ張るのは嫌われたくない気持ち?
髙野: 冒頭に紹介したデータでも、管理されていない多様性のあるチームは単一的なチームより成果が劣るという結果が出ています。多様性だけではだめで、きちんとマネージされることで、高い成果を出すことができると。日本の組織は、管理されていない多様性のあるチームになりがちです。これをいかにして管理していくかがポイントだと思いますね。
タックマンモデルという組織成長ステージを表したフレームワークがあって、その中では、組織は形成期・混乱期・統一期・機能期に分けられるとされています。マネージされていない多様性のあるチームは、混乱期を乗り越えられずパフォーマンスが下がったままなのではと考えます。宇宙飛行士は非常にチームビルディングに力を入れているそうですが、どのようにチームビルディングを行っているのでしょう。
野口: NASAでは、形成期はトップダウンで進むんですね。まずリーダーが選ばれて、そのリーダーがメンバーを選んで、顔合わせの会や簡単なゲームを行います。次の混乱期は反対にボトムアップです。「リーダーの言うことはわかったが、私たちはそれぞれ全然違う人間で、違う目的を持っているんだ」とメンバーが主張する段階です。チームメンバーがちゃんと発言できて、リーダーがそれを聞いた上できちんとチームの方向性を修正してくれるかが肝になります。混乱期は諍いを生む作業で、嫌われる可能性があります。一方で日本人には「嫌われたくないバイアス」が強いですよね。だからこそ、混乱期を乗り越えられないのではないでしょうか。嫌われることへの恐怖を克服できれば、混乱期を乗り切って統一期へ進めると思いますし、そこから先はすんなり進むはずです。
スペースXが変えた宇宙の常識
髙野: せっかくなのでスペースXについてもお聞かせいただきたいです。実際にスペースXと仕事をした野口さんから見た、スペースXのすごさを教えてください。
野口: 私が宇宙飛行士として最初に乗ったスペースシャトルは、コックピットにスイッチが3,000個あって、それをすべて覚えないと搭乗できませんでした。しかしスペースX製の宇宙船は、コックピットに液晶パネルがたくさん搭載されていて、それがスイッチの代わりになっているんですね。これにより、3,000種類のスイッチをすべて覚える必要がなくなりました。その時に必要な作業さえわかっていれば基本的には問題ありません。もちろんプロの宇宙飛行士なので、すべての画面や、画面が不具合を起こした時の対処法も把握していますが、画面を指示通りにタッチしていけば、打ち上げから宇宙ステーションについて帰ってくるまでなんとかなるのがスペースXのロケットなんです。これからは宇宙観光の時代で、普通の人が宇宙に行けるような宇宙船を作ろうという考えがはっきりしていて、かつそれを実現しているのがすごいと思いますね。
髙野: 最初にスペースXのロケットを見た時、率直にいかがでしたか?
野口: プロの宇宙飛行士の間でも賛否両論でしたね。日本ではあまり話題になっていませんが、ボーイング社のスターライナーというスペースXの対抗馬的な宇宙船があるんです。それは従来のスイッチが多用されたスタイルで方向性がまったく違います。私は正直、ボーイングが生き残ると思っていました。しかし時代の変化は想像以上に速くて、残ったのはスペースXでした。実際に宇宙での観光旅行もアメリカでは実現していますし、タッチパネルに移行した成果も出ていますしね。それが時価総額21兆円という数字にも現れているのではないかと思います。
髙野: スペースXはデザインやスタイルにもこだわっていると聞きます。一方で、素人からすると「それって宇宙事業に必要なの?」とも感じているのですが……。
野口: ビジネスで求められるものも、時代と共に変わってきています。アメリカでここ10年くらい注目を集めているのはアートです。アートがわからないと今のビジネスシーンは引っ張れないというのが、アメリカのコンサルティング業界の最前線です。そう考えると、スペースXはそれをよく理解しているし、アート自体の理解も深いと思います。「これかっこいいけどこれじゃ宇宙に行けないよね」と思うようなデザインで、実際に宇宙へ行けるようにしてしまう面白さが、スペースXらしさなのかなと。
髙野: なるほど、ありがとうございます。最後に宇宙旅行についてお聞かせください。一般の人がパリやニューヨークに行く感覚で、かつ100万円〜数百万で実際に宇宙旅行できる日は来るのでしょうか?
野口: 宇宙旅行の普及に向けて、安全性の問題と価格の問題があります。前者に対しては、様々な技術革新によってここ20年ほどは宇宙飛行士の死亡事故も起きておらず、何かあっても乗組員だけは無事に帰ってこられるようになってきました。これからさらに安全な乗り物になっていくと思います。価格も今のところ、億単位になっていますが、おそらく10分の1、100分の1になってくるでしょう。飛行機での旅行もそうした経緯を経て庶民の手にやってきました。宇宙旅行の普及もきっとすぐです。アメリカはすでに実現していますが、日本市場でも実現する機会がこれからやってくるんじゃないかと思いますね。
髙野: ありがとうございます。宇宙旅行が実現した際には、「楽天トラベル」でも取り扱いたいと思いますので、皆さん「楽天トラベル」で予約してください。