日本郵政と楽天、両グループCEOが語る資本・業務提携の狙いとは?

今年3月に資本・業務提携を発表した日本郵政グループと楽天グループ。日本全国を網羅する郵便局や物流ネットワークを持つ日本郵政と、インターネットを中心とした様々なサービスを提供する楽天が手と手を取り合うことで、いったい何がどのように変わろうとしているのでしょうか?

10月に開催した楽天グループ最大規模のイベント「Rakuten Optimism 2021」に、日本郵政グループのCEOである増田 寬也氏と楽天グループの会長兼社長である三木谷 浩史が登壇。ジャーナリストの大西康之氏が本セッションのモデレーターを務め、提携に至るまでの背景や今後の展開への期待感について語り合うセッションを展開しました。

本記事では、特別コンテンツ「リアルとデジタルの融合がもたらす社会イノベーション」のハイライトを抜粋してお伝えします。


大西氏:最初に日本郵政と楽天の提携について聞いた時、この両社が組むのかと大変驚きました。デジタルの先端を走っている楽天と、ある意味でアナログ的な日本郵政がどうやって組んでいくのかと。まず増田社長、日本郵政をどうやって変えていこうと思われているのかという辺りから伺いたいと思います。

違う持ち味があるからこそ化学変化が起きると思えた

増田氏:社長になったのは去年の1月です。三木谷さんのことは前から存じ上げていて、大変尊敬する経営者です。しかし、(お互いの)会社はまったく違う持ち味があります。だからこそ化学変化が起きると思えました。郵政グループで打破したいのは自前主義です。確かにリアルの世界では非常に強いのですが、これからはやはりネットの時代。リアルだけでなくネットにすべてをつなげていくことが、これからの社会の進む方向です。例えば、「楽天市場」の商品をお客様に届けるラストワンマイルもそう。楽天さんときちんと組むことが、トータルで両グループにとって素晴らしいんじゃないかなと思っていたので、今年の3月に形にすることができて大変良かったです。

大西氏:着任されてから、この提携の決断に至るまでが非常に早いですよね。日本にもIT企業やネット企業が数多くあるわけで、その中で楽天グループを選ばれたと。何を期待して提携しようと思われたのでしょうか?

増田氏:一番大きかったのは、楽天経済圏です。郵便局ネットワークがうちの一番のリアルにおける持ち味で、共創ネットワークとして、他の事業者さんにもお使いいただけることを期待していますが、(楽天は)70以上の幅広いサービスを提供しておられて、大きなマーケットを築き上げていて、デジタル化においても先進的なテクノロジーをどんどん入れているというところに、当社にとっての可能性を感じました。

大西氏:提携はどちらが持ちかけた話でしょうか?

増田氏:三木谷さんです。提携はその前から荷物の関係でやっていたのですが、三木谷さんの方から「資本提携までして、さらにこの提携を強化していきましょう」という話があって、それにうちがお応えしたという関係です。

大西氏:なるほど。では三木谷社長、資本提携を増田社長に持ちかけられた時のお考えと狙いを教えてください。

高いクオリティのデリバリーサービスを提供できることが重要なポイント

三木谷:ネットショッピングは、今アメリカだともうEC化率が15%ぐらいですが、日本はまだ10%*に満たないくらいだと思います。この数字をさらに上げていく中でやっぱり一番重要なことは、物を届けるということだと思うんですね。楽天グループとしては数年前からある程度独自のものを作ろうとやってきたわけですけれども、ここからさらに100%まで自前でやっていくよりも、日本郵政さんと組んだ方が圧倒的に効率的だし、シナジーがあるということがひとつですよね。翻って、我々の出店者に対しても魅力的な、値段もそうですけれども、高いクオリティのデリバリーサービスを提供できることが重要なポイントだと思います。

日本郵政さんと組めたことによってエンドツーエンドでどんどん進んでいって、相当早くデリバリーができて、かつ効率的な物流ができるようになってきています。そういう意味において日本郵政さんとのシナジーは高いです。それからやはり、全国津々浦々の2万4千ある郵便局という非常に魅力的なアセットを、我々としても積極的に活用していきたいですし、また金融関係でも色々なアライアンスが考えられます。日本で一番古い会社なんですよね?

*BtoC市場におけるEC化率。経済産業省令和2年電子商取引に関する市場調査より

増田氏:ちょうど今年150年ですからね、大きな会社の中では一番古い部類に入っていると思います。明治の直後ですから。(郵便制度としては)一番古い仕組みです。

三木谷:けれども、増田社長のリーダーシップにおいて、JPデジタルという取り組みもそうですけど、果敢に、変身しようとされているところで、我々も少しは貢献できればと思いました。


デジタル郵便局ネットワークを作り上げ、さらに地域に役立つ仕事に取り込む

増田氏:うちの一番の持ち味は今おっしゃった2万4千ある郵便局ネットワーク。法律上、ユニバーサルサービスといって、必ず維持しないといけないんです。今作ろうと思っているのは、もうすでにある2万4千のリアルの郵便局、プラス、デジタル郵便局ネットワーク。スマホ上で24時間365日、時間的な制約もなくサービスが提供できるような、そういうものを作りたいと。そこが起点となれば、今の郵便局の仕事も大分移せるし、実は本当に地域でやりたい仕事、地域に期待されている仕事って他にもいっぱいあるんですよね。

例えば、地方で高齢者が相続相談はやっぱり身近な郵便局で親身にやって欲しいとなっても、窓口には他の仕事があって体制ができていないんです。デジタル郵便局ネットワークというものを作り上げることができれば、さらに地域に役立つ仕事を取り込めるんじゃないかと。三木谷さんがおっしゃったJPデジタルという会社(株式会社JPデジタル)を7月に立ち上げて8月からスタートしたんです。ヘッドは楽天から完全に転籍する形で来ていただいています。そこを起点に、デジタル郵便局ネットワーク作りに励んでいるんです。私は郵便局ネットワーク2.0なんて言っているのですが、そういうデジタル空間の活用の可能性がものすごく広がっていくんだと。今それにとにかく力を入れています。

大西氏:ただ、その仕組みだけ入れても、なかなか人がついてかないと厳しいんじゃないかと。全国津々浦々の郵便局の中を、本質的にどうやってデジタルに変えていくのでしょうか?

増田氏:世の中、デジタルで年配の方もスマホで色々なサービスを使うわけですから、局員も当然やっぱりどんどん変わってきます。それから、やはりテクノロジーが上がって、ツールが変わっていけば局員のレベル感も上がっていくんじゃないかと。デジタル化というのはそうやってどんどん進歩していくんだと思います。

社会のデジタルトランスフォーメーション、両極端にあった会社が組むことの意味は大きい

大西氏:増田社長が今やられようとしている試みに楽天はどういう形で貢献できるのでしょうか?

三木谷:その前段の話でいうと、Eコマースがどんどん普及してきて、店舗のリアルのデジタルトランスフォーメーションがどんどん進んでいく中、やっぱり「物流」イコール「Eコマース」になりつつあるんですよね。物を届けるという実物経済をベースにしたものにおいては、物流が一番重要なアセットです。正直に言うと、情報ネットワークとか色々な形も含めて、日本郵政さんもこれからやっぱりアップグレードしていく必要があると思うんです。その中で楽天グループの、例えばシステムに関する考え方であったり、クラウドをどうやって導入していくかであったり、そういうところでもかなりお役に立てると思います。

さっきの話もUXだと思うんですよ。今ではシニアの人も、色々なメッセージサービスを使って、孫に写真を送ったり、ビデオ通話したりしているわけでしょう。考えられないですよね、10年前には。必ずUI/UXについては簡単になっていくし、社会のデジタルトランスフォーメーションによりその両極端にあった会社が組むっていうのは非常に意味が大きいですよね。

大西氏:デジタル化と同時にやらなきゃいけないといわれているのが地方活性化。地方経済、全国津々浦々ということを考えた時に、日本郵政っていうのはすごいアセットを持っているわけです。地方経済の活性化における日本郵政の役割とは何でしょうか?

増田氏:(都市部だけでなく、地方にあるグループサービス支局で働く)社員の知恵を引き出すことで、地域で色々と問題になっていることの解決に相当貢献できるのではないかと思っています。それから地方では、これから先、色々な物がどんどん届くようになる。全部人ではなくて、ロボットとかドローンとか色々なものを駆使していくので、そうすると伸びしろは地方の方がずっと大きい。それにゆくゆくは産業にちゃんと結び付きます。新しいテクノロジーをとにかく色々入れていくっていうことは、都市部よりもむしろ地方部で、それに付随する産業、刺激して新しいものにつなげていく、そういう余地が大きいんじゃないかなと思います。

大西氏:楽天は創業の時から地方とは切っても切れない縁があると思うんですけれども、これを郵政との提携により、どうやってさらに日本の地域経済、地方を元気にしていくのでしょうか?

三木谷:デジタライゼーションで物理的な距離はほとんどなくなったわけで、地方だと大きな家に住めるとか生活が豊かになるといって、地方がどんどん栄えてくるだろうなと思います。一方、物流という問題も出てきますので、全国のあらゆるところに郵便ネットワークがある日本郵政さんは大変重要なプレーヤーにこれからなっていくんだろうなと。ただ、今までの枠組みではなくて、先ほどおっしゃったような地方のサービスを拡充していくとか、そういうことができれば大変面白いことになると思います。ご高齢の方とか、なかなかデジタル化に慣れない方もいるでしょうから、少しでも楽天グループとして貢献しながらデジタルトランスフォーメーションを進めていければ、我々として大変光栄だなと思います。

世界的に見ても類を見ないコンビネーション

増田氏:最初に組んだことによる成果が見えてくるのは物流の分野だと思います。JPデジタルと同時期にJP楽天ロジスティクス株式会社という会社を設立して、そこで今、物流のところを一刻も早く、質良くお届けすることをやっています。今度「楽天カード」でゆうちょ銀行デザインのものも出していきます。次から次に新しいサービス提供していくのですが、一番早く見えやすく出てくるのはやっぱり物流ということで、両社の提携の成果を、少しでも早く見せていきたいなと思います。

大西氏:物流革命が起きるかもしれないということですね。

三木谷:このマッチングは世界的に見ても、類を見ないコンビネーションじゃないかなと思います。

増田氏:三木谷さんがおっしゃったように、ひとつも間違いなくきちんとした形で届けると。そこのクオリティをとにかくトータルで上げていきたいなと思います。

大西氏:おそらくそのレベルで物流ができている国って今ないと思うんですよね。だから本当に、日本郵政と楽天のコンビネーションが世界の最先端を行くという予感がいたしました。お話を伺ってますます先が楽しみになってきました。


本講演の動画全編は、以下からご覧いただけます。
リアル×デジタルの融合がもたらす社会イノベーション

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