100%オーガニック野菜を提供する「Rakuten Ragri」。 耕作放棄地×ペットボトルで起こしたイノベーションとは?
地域社会を、農業を、エンパワーメントしたい!
そんな想いでオーガニック野菜の栽培、加工に取り組む楽天グループの事業があるのをご存知でしょうか。愛媛県大洲市にある楽天農業(旧:テレファーム)では、楽天の農業サービス「Rakuten Ragri」(以下、「Ragri」)の1つとして展開している「100%オーガニック定期便」で家庭に届ける、有機JAS認証を取得したオーガニック野菜の生産やカットサラダの製造を手掛けています。
100%オーガニックのカットサラダを栽培から加工まで一貫して行う事業形態の実現は、「Ragri」が日本初なのだそう!このオーガニックサラダが作られる現場には、農業にイノベーションをもたらす知恵と工夫が詰まっていると聞き、楽天農業チームにお話を伺うため愛媛県大洲市を訪れました。
耕作放棄地ほど、オーガニックに向いている!
――本日は楽天農業の取り組みや、「Ragri」で提供している「100%オーガニック定期便」などについて詳しくお聞きできればと思います。「100%オーガニック定期便」で注文できる商品には「カップサラダ」、「袋サラダ」、「野菜セット」がありますが、これらの野菜はどこで栽培されているんですか?
遠藤: 現在はここ愛媛県大洲市と広島県神石高原町、静岡県御殿場市、伊豆の国市、伊豆市にも農場を有しています。メインで作っている作物は、レタス、グリーンリーフ、小松菜、山東菜、人参、蕪、ビーツ、ケールなどですね。
――普通の野菜ではなくオーガニック野菜を栽培しようと思ったキッカケを教えてください。
遠藤: もともとは、「田舎を何とかしたい」という想いからスタートしているんです。
僕は愛媛県松山市が地元でして、当時は医療の検査技師として、検診のために中山間地を回ったりしていたんです。そこで目にしたのが、廃校になる学校や老人の孤独死なんかだったりして・・・これは、何とかしなければと周りを見渡すと、山には耕作放棄地があふれていた。それであれば、厄介がられている耕作放棄地を活用して農業をしようと思い立ったわけです。
とはいえ、中山間地って理由があるから耕作放棄されるんですね。山の上だから水が出ないとか、狭いから機械化できないとか。その狭い面積で収入を上げるためには、付加価値を付けなければならない。
そこで目を付けたのが、オーガニック農業です。
オーガニック認証を取るためには、少なくとも2年は農薬を使っていない土壌でないとダメなんです。農薬を撒いていた田畑を使うとなると、2年待たないといけない。耕作放棄地はすでに長年放棄されていたわけで、2年も待つ必要がない。そんなわけで、耕作放棄地こそオーガニックに向いているんです。そこからオーガニック農業を始めました。
農薬を使わないために、ペットボトルを活用した独自の農法を採用
――耕作放棄地だからこそ、オーガニック農業が始めやすいということがあったんですね!「Ragri」の野菜って、本当に農薬を使っていないんですか?
遠藤: そうですね、うちではオーガニックの基準で認められている天然由来の鉱石資材や微生物資材のみを使用しています。
久山: 農薬を使わないため、虫との戦い、雑草との戦いです。そこで「Ragri」で行っているのが、ペットボトルを使った農法です。ペットボトルを使うことで、防虫、保湿、保温を実現しているんです。
遠藤: これが、現在メインで作付けしている神石高原町でペットボトルを活用している写真ですね。
――圧巻!!!! キレイですねぇ。
遠藤: 最初にオーガニック農業をやりだしたころ、芽が出ないなぁと思っていたんですが、実は芽が出てもすぐに虫に食われちゃっていたんです。でも僕らは、除草剤や防虫剤が使えない。そこで考えたのがこの方法です。
僕たちのやり方では、肥料を撒いた後、畑にシートをかけます。表面は銀色で裏が黒いブルーシートのようなもので、雨は通すけれど日光は通さないので草が生えてこない。また、銀色にすることで虫が寄り付くのを防いでいます。
種を植えるところだけシートにペットボトルの大きさの穴を開け、種を落とした後で、ペットボトルをかぶせます。10cmぐらいに育つまでが虫との勝負です。基本的に虫はペットボトルの中に入れないので、それまでをペットボトルの中で過ごします。
ペットボトルの中である程度まで育ったらボトルを外し、その後は防虫ネットで囲い、さらに大きく育ってきたら、収穫まではビニールトンネルの中で育てます。これはビニールを張った畑の様子ですね。葉物野菜を育てているところです。
実はこれ、水があまり必要ない手法なんです。ペットボトルやビニールをかけているので水が抜けていく場所がなく、弱りがちな根の部分も、高い湿度を保つことができるんです。なので、乾燥で苦しんでいる土地とかにも有用だと思います。
――この手法!誰が考えたんですか?
久山: 遠藤さんです。
――すごいイノベーター!まさに、農業界のイーロンマスクですね!
遠藤: イーロンマスクかどうかは分かりませんが…、このペットボトルを刺した畑の様子は、一般的な「オーガニック」のイメージからはほど遠いんじゃないですかね(笑)。
――ペットボトルは再利用するんですか?
遠藤: はい、それこそ僕がこの手法を始めた10数年前に使っていたペットボトルもまだ使っています。
初期はゴミ屋さんから貰ってきて、底を切っていました。
現在はペットボトル屋さんに特注で、底を切ったペットボトルを発注しています。神石と大洲で合わせて、20万本近く使っているかもしれません。
――従業員がペットボトルを捨てられなくなりそうですね。(笑)
矢野: 飲んだ時に、「あ、これ、いいヤツ!」とかは思ったりしますね。つぶしやすいペットボトルはやわらかいから畑に刺さらないなぁとか、重ねられないと保管場所に困るから独特な形状のものは使えないなぁとか(笑)
久山: 自分で作業するとよくわかりますね。
遠藤: 神石高原町では地域のお年寄りにペットボトルの底を切って「Ragri」に持ってきてくれたら、1本15円で買い取るよっていう交渉をいま、町長としているんです。種類にもよりますが、作物はペットボトルの中で夏場は1週間、冬は1カ月ぐらいを過ごしますね。
――この後、大洲の農場も見せていただくことはできますか?
遠藤: いいですよ。ではこの後、行きましょう!
山の中をけっこう長く走る・・・
こんな山奥に・・・!?「Ragri」の事務所から山道に入り、車を走らせること約15分。森を抜けたところに大洲農場がありました。
おいしそうなズッキーニが。大きい!
愛しそうにナスを見つめる矢野さん。
――すごい山奥にあるんですね。
遠藤: そうですね。耕作放棄地は、もともと不便な立地にあるとか、水が出ないとか、条件が悪いから耕作放棄地になっているところが多いので。それでも当初は、オーガニック農業をやりたいということに周囲の理解が得られなくて、農地を借りるのに本当に苦労しました。でも、少しずつ仲間が増えていって、今はこの大洲農場のほかに、広島県の神石高原町にも農場がありますし、今後は御殿場でも作付けが始まる予定です。
楽天農業チームのみなさんにお話を聞いた後、2018年6月より稼働している事務所隣のカットサラダ工場も見学させていただきました。
オーガニック野菜の生産から加工まで一貫して行う事業形態を実現したカットサラダ工場を持ち、100%オーガニックのカットサラダを提供しているのは、「Ragri」だけです!
カットサラダは注文を受けてから畑で作物を収穫し、収穫後すぐにカットされ、工場の中でパッキングを行います。
こだわりにこだわってオーガニックで育てた野菜たちは、加工も衛生管理もしっかりしながら、お客様の手元になるべく早く届くように行程が組まれていました。
収穫したレタスをカットする様子。
工場の中は撮影禁止でしたが、入るまでの衛生管理がとても厳重でした。
美味しそう!これがすぐにクール便で発送されます。
2020年には大洲市で冷凍野菜工場が新たに稼働!
今年は、大洲市に新たな生産拠点として冷凍野菜工場を竣工し、オーガニック野菜の冷凍加工も開始しました。
この工場は、2018年に西日本を襲った豪雨で廃業を余儀なくされた「シロモト食品」さんの工場跡地を修復して建てたもので、単に生産拡大のためだけでなく、地域の復興にも貢献したいという思いから、工場の建設地を決めたそう。
単なる地域貢献の視点だけでなく、冷凍野菜のラインアップを新たに設けることには事業メリットもあります。野菜はそもそも生鮮食品のため、品質を保ったまま保管できる時間に限りがありますが、冷凍野菜にすることで、品質をそのままに保存がより長くできるようになり、そのおかげで今まで以上に販売網も拡げることができるようになります。
この大洲冷凍野菜工場では、前述のカットサラダとは異なるラインアップで、まずは「ブロッコリー」や「カリフラワー」を扱い、今後ラインアップを増やしていく予定だそう。楽しみですね!
耕作放棄地という敬遠されがちな土地に、独自のペットボトル農法で挑む皆さんからは、オーガニック野菜への並々ならぬこだわりと愛情が感じられました。これだけ手塩にかけて育てたお野菜たちは、さぞかし我が子のように可愛いのだろうと想像がつきました。
自然にも、身体にもやさしくて、おいしい「Ragri」のサラダ。ぜひ、多くの皆さんに味わっていただけたら嬉しいです。