AI時代の仕事とは
最近、絶対音感について面白い話を聞いた。かつて絶対音感は、幼少期の訓練を逃したら身につけるのは困難な「才能」と考えられていた。しかし最新のある研究によると、人工知能(AI)を使ったトレーニングを続ければ、大人になってからでも身につけることができるという。人間の「才能」だと言われていた領域にまでコンピューターが踏み込んできたのである。
では、コンピューターに音楽は作れるのだろうか。私の答えは「イエス」だ。経済学者のシュンペーターはイノベーションを「新結合」と定義した。技術やアイデアのこれまでになかった組み合わせが、新しい価値を生むという考え方である。
AIはきっと、人間が思いつかなかった音の組み合わせを見つけるだろう。料理やファッションの世界でも、新しい組み合わせをどんどん生み出して、人間の発想にない音楽、料理、ファッションが次々現れることだろう。
では、人間が生み出す音楽や料理、ファッションは無用になるのかと言えば、私は、そうはならないと思う。違いは「ストーリー」である。音楽を生み出す人にはその人固有の物語があり、その人が生み出す音楽そのものにも背景がある。AIが生み出すストーリー無き音楽と、人間が生み出す音楽は、全く別のものだ。
AIは世の中をどう変えるのかという話題を、最近よく耳にする。確実に言えることは、世の中を変えるのはAIではなく、AIを使う人間だということ。人間が、AIをいかに使いこなして世の中を変えていくのかが、重要なポイントである。
「楽天市場」を例に考えてみよう。「楽天市場」には、店舗さんを支えるECコンサルタント(ECC)がいる。ECCが店舗さんに提供しているサービスのうち、パソコンの使い方やホームページの立ち上げ方みたいな簡単なアドバイスは、今後、AIがやることになるだろう。
だからといって、ECCがいらなくなる訳ではない。AI時代のECCは、店舗さんやそこで買い物をするお客さんのことを理解して、これまで以上にクリエーティブなことを提案していかなくてはならない。ECCがコミュニティーのファシリテーターになることが求められる。これはコンピューターにはできない、人間ならではの仕事である。
楽天が目指すのは、地域や店舗さんとともに成長していくこと。AIを駆使して店舗さんをエンパワーメントし、地方自治体と連携して地域を活性化していくことだ。
こうしたやり方は効率一辺倒のビジネスに比べると、手間がかかるかもしれないが、中長期で考えればより持続可能だと考えている。AIを使いこなしつつ、あえて人間くさいインターネットの活用を追求していきたい。
「AIで人間の仕事がなくなる」という話も、よく言われている。ある分野のいくつかの職業では、それは起きうることだと思う。産業革命以来、機械によるオートメーションが進んだことで、色々な仕事はなくなった。しかし総労働需要は減っていない。経済構造が変わり、新しい仕事が生まれている。
ミクロで考えると、一つの職業がAIにとって代わられるというのは、避けられないことかもしれない。しかしマクロで考えれば、パターンが変わるだけで、仕事そのものはなくならない。
AIが発達した社会では、より人間的な仕事が求められていくだろう。
例えば、AIを使うことが当たり前になる頃、日本の平均寿命は120歳になっているかもしれない。そうなれば介護、福祉の分野で新しい仕事が生まれてくる。テクノロジーがさらに進化すれば、「デジタル・デバイド」という言葉も過去のものになるだろう。高齢者に優しいテクノロジーが出てきて、誰もがインターネットを便利に使いこなす時代が来る。
グローバル化も、大企業や一部の専門家だけの話ではなくなる。トランプ政権はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を決めたが、アメリカがTPP加盟を4年先送りしたとしても、いずれ貿易の壁がなくなる世界が訪れる。
その時、重要になるのが地域コミュニティーだと思う。
グローバルが当たり前の時代にこそ、地域性が差異化のポイントになり、その重要性が見直されることになるだろう。地域コミュニティーならではの、人のつながりを大切にした成長が求められていくはずだ。
AIに使われるのではなく、使いこなすことを考えよう。今、楽天には世界中から優秀なエンジニアが集まり、AIを駆使したサービスをどんどん生み出そうしている。店舗さんや地域コミュニティーの人々が、楽天のプラットフォームを使ってどんどん世界に飛び出していく。
我々は近い将来、AIを駆使した巨大なプラットフォームになるだろう。それが、私が思い描いている構想である。
代表取締役会長兼社長
三木谷 浩史
@hmikitani