テクノロジーとデザインがもたらす無限の可能性〜佐藤可士和×三木谷浩史対談レポート~

2021年2月9日、国立新美術館での「佐藤可士和展」の開幕を記念した対談配信イベント「TECH & DESIGN UNLIMITED FUTURE」が開催されました。日本を代表するクリエーターであり、2003年から楽天のチーフクリエイティブディレクターとして楽天のクリエイティブを牽引する佐藤可士和氏と弊社社長の三木谷浩史によるライブ対談が実現しました。

本記事では、テクノロジーとデザインを活用した無限の可能性というテーマで語られた対談の一部をご紹介します。

※配信映像はこちらよりご視聴いただけます。また、ログミーにて全文書き起こしをご覧いただけます。


佐藤可士和と楽天、18年の歩みを振り返る

ビジネスパートナーとしてはもちろん、友人としても、18年の付き合いがある二人。可士和氏は、これまでの取り組みでも、特に驚いた出来事として2004年のプロ野球参入発表を挙げ、「本当に楽天は1年で日本中に知れ渡ったし、それで『こういうマーケティングの仕方があるんだな』と思いました」と話しました。

また、当時の三木谷とのエピソードとして、「(三木谷がプロ野球に参入しようと言った)その日から、ミッキーの携帯がしばらく通じなくなって。そうしたら、ある日突然またかかってきて、『ロゴ、こういうのにしようと思うんだけどどう?』って」と笑いながら振り返りました。

そんな三木谷は、可士和氏との取り組みについて、「全体的なマーケットに対するインパクトとか、さざ波が大きな波になる仕組みを一緒に作ってきた」と言います。

その一例として、「楽天カードマン」のテレビCMができあがった当時の背景について可士和氏が、「もっと真面目なアイデアもいっぱいあったんですけど、広告代理店にいろいろ提案していただいた中にカードマンがあって。僕は『カードマン……これはいいな』と思って。それでもう、その1案だけミッキーに『カードマンでやるの、どう?』と持って行った」と振り返りました。三木谷も「子どもがDIYでいっぱい(メガネを)作って、完全にバズってましたね」と話しました。

また、2013年には、「お買いものパンダ」が誕生。最近では、「お買いものパンダ」のCMから生まれた「楽天ポイントダンス」が、「TikTok」で大きく話題になりました。「お買いものパンダ」の誕生について可士和氏は、「最初はミッキーが『LINEのスタンプで何かやりたいから考えて』と言うから、『じゃあとりあえずパンダかな』と思ったんです(笑)。『とりあえずパンダかな』というのは、『みんなが好きなものって何かな』と考えていて、パンダにしようと。それで、楽天の中でいろいろイラストを描いてもらって。パンダも大人気になりましたね」と振り返ります。

三木谷も「今、5,000万人ぐらいが(LINEでお買いものパンダスタンプを)使ってるんですよね。楽天より(パンダが)有名じゃないかって」と笑いながら話しました。

2018年には、デザインの力によって楽天のビジネスをよりパワフルにしていくデザイン組織「楽天デザインラボ」が可士和氏の提案により発足。可士和氏は、クライアントとの取り組みの中で、組織を立ち上げたのは初めてだったと振り返りながら、「楽天のデザインシステムは、それこそさっきのロゴのほとんどがデザインラボで作ったものです。フォントも。だいぶ前から2書体ぐらい作っていましたけれども、楽天もこれだけグローバルでやっていれば、もっと本格的にやってもいいかなということで。ロンドンのDalton Maagというところと一緒に開発させていただいて、かなり良いものができたかなと思っています」と話しました。また、三木谷も、デザインラボの発足後、多くのデザイナーやクリエーターが楽天に入社し、社内での量産体制が整ったと、その効果を改めて話しました。

テクノロジー×デザインがもたらす未来とは

「佐藤可士和展」の開催にあたり、佐藤可士和氏、楽天デザインラボ、楽天技術研究所のコラボレーションによるデジタルインスタレーション作品を制作。作品の感想、そして「テクノロジー」と「デザイン」が融合することで切り拓かれる未来について話しました。

「佐藤可士和展」展示作品の1つ「UNLIMITED SPACE」。展示空間内に足を踏み入れると、国内外の楽天サービスで検索されている膨大なキーワードによってもう1人の自分が形づくられ、自身のからだの動きに追従。キーワードは、楽天のコーポレートフォントによって投影される。

対談前に作品を体験した三木谷は、「まさしくデータ社会の到来ということと、人間との融合みたいな。結局、今までにないサイバースペースがすごい価値になってきているわけじゃないですか。だから、それを非常におもしろいかたちで表現していて、未来を感じさせる。もしかしたら、コンピューターが僕を見たらこういうふうに見えるのかな、という」と感想を述べました。

これに対し、可士和氏は、楽天は「お買いものパンダ」や「楽天カードマン」などの親しみやすいマーケティングをしている一方で、膨大なデータを安定した状態で制御するといった、テクノロジーも多く持っていると話します。

こうしたテクノロジーの発信について三木谷は、インターネットビジネスというのは脳内シェアであり、データなくしては戦えないと前置きし、「『モノを買おう』と思ったら楽天に行こうとか、あるいは『トラベルしよう』と思ったら「楽天トラベル」というふうに思ってもらえるかどうか。その辺のアイデンティティとUXも含めて、どうやってプレゼンテーションしていくかがポイントです。例えばハンドバッグやファッションだと、なんとなく「デザインが重要だ」というのはすごくわかりやすいけど。実は世界のIT企業は、異常にアイデンティティと統一感に力を入れていますよね。でも楽天の場合は、そういうどの会社よりもさらに多様で、統一性もあるんだけど、多様性もある。統一性と多様性って、相反する概念じゃないですか。それをどうやって包み込むかが重要です」と話しました。

「佐藤可士和展」展示作品のひとつ「ジャイアントロゴ」のスペースに置かれた楽天のシンボル。シンボルの中に楽天にまつわる多様な映像が投影される。

また、スマートデバイスやAIなどによる情報革命が加速する中でのデザインの在り方について、可士和氏は次のように話しました。

「まさに今、我々はテクノロジーの恩恵を受けて、想像もしなかったような生活をしていると思うんです。今度はそこにデザインが一緒に関わることで、さらにそのテクノロジーを可視化できたり、人に伝えやすい・わかりやすいかたちで伝えていく。デザインとテクノロジーが融合していくことで、もっとより良く社会の役に立つようになるのかなと思うんです」と話します。

「今回の可士和展をやって、クライアントと協業でずっといろいろ作り上げてきているじゃないですか。僕は本当にお手伝いなんですけど、やっぱりクリエイティブって新しい視点を社会に提示する役割があるのかなと。楽天の場合はテクノロジーと結び付いてものすごく新しいことをやっているんだけど、それをデザインやコミュニケーションの力でわかりやすく、親しみやすく伝えてきたと思うんです。やっぱりクリエイティブは新しい視点を提示して、これからも少しでも社会を良い方向にもっていけることをやれたらなとは思ってるんですけどね」

楽天にとっての佐藤 可士和

対談の中で、18年歩んできた中での可士和氏の印象について聞かれた三木谷は、「単なるクリエーターとかデザイナーでじゃない」と答え、「やっぱりデザインするからには表現することもいるけど、ある程度切り捨てることも必要なわけじゃないですか。普通の人って、なかなかこの切り捨て作業ができないんだと僕は思ってるんですよね。切り捨てるためには、その物事の本質をズバッと見抜ける力があって。結局切り捨てても大丈夫だったよねというところもあるし、あるいは増えたり幅を出したり。『楽天カードマン』もしかり、『FCバルセロナ』や『お買いものパンダ』とか、そういうことを具現化してくれているので」と説明します。

一方、三木谷との歩みについて可士和氏は、「ミッキーはやっぱり、同い年なので。タメじゃないですか(笑)。もちろんクライアントなんですけど、友達だし。『タメの友達がこんな世界でがんばってるんだ』『がんばれるんだ』ということがすごくうれしいし、勇気をもらえる」と話しました。

対談の最後、三木谷は楽天にとっての可士和氏との協業の重要性を、次のように語り、締めくくりました。

「僕は高校時代、美術は10段階で2だったし、なんとなく(デザインの)イメージはあるんだけど。結局ユーザーエクスペリエンスというのは、デザインだけじゃないんですよね。

車で言えばトータルデザインだし、家では居住空間だし。それと同じようなものが、実はインターネットの世界ではすごく重要で。(会社を)作った頃の楽天では、最初はそれがバラバラだったわけですよ。バラバラだけどいろんなものがいるから、「楽市楽座みたいでおもしろいね」というところから、サイバーが中心になってきた世界ではそれではダメだと。

うちの場合は、銀行もあれば証券会社もあれば、旅行会社もあればショッピングモールもあれば、保険会社もある。ほとんどすべてあるじゃないですか。これが有機的に結び付いて初めて世界と勝負ができるし、地方の出店者さんや宿泊施設さんも助けられるし、日本のエンドユーザーにも安心して使ってもらえるようにできると思っています。

その中の具体的なデザインという屋台骨を作ってもらっているので。これから世界で勝負していく上には、これからも二人三脚で……なんか結婚のプロポーズみたいになってますけども(笑)。よろしくお願いします、と(笑)。ありがとうございました」

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