大人の常識にとらわれず“やってみる”。高校生たちが2030年の理想の未来を考えた「Rakuten IT School NEXT」詳報!

「Rakuten IT School NEXT」は、全国各地の高校生たちが、地域の方々や楽天社員と協力しながら、自分たちの住む地域の未来について考えるプログラムです。テクノロジーを活用して自分たちが住む地域の課題を解決するためのアイデアを立案し、実際に試し、検証・改善などを行います。約5カ月間実施された本プログラムの成果発表会が、2019年12月に東京・二子玉川で行われました。

2年目の実施となった「Rakuten IT School NEXT」には、北海道から沖縄まで、10の高校から生徒150名と、楽天社員55名が参加。テーマは「2030年の理想の未来」。持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」のゴールイヤーである2030年から、バックキャスティングして考える手法を採用しました。(1年目の「Rakuten IT School NEXT」に関する記事はコチラ!)

どの高校も、真剣にアイデアを出し合い、議論、考察をしながら課題に取り組んできたため、成果発表会でのプレゼンテーションも、観ている人たちをどう惹き込むか、とても良く考えて構成されたことが伝わってきました。伴走した楽天社員にとっても、かけがえのない時間であったことがわかる、あたたかい場となりました。

今回、熱のこもった成果発表会で、賞を受賞した5校のプレゼンテーションの様子と審査員からのコメントをご紹介します。

【Innovation賞】 岩手県立釜石高等学校「2030年のオープンシティ」

ラグビーの町と言われる岩手県釜石市では、2011年3月11日に、9メートルを超える津波で甚大な被害を受けましたが、2019年9月には、釜石鵜住居復興スタジアムでラグビーワールドカップの試合が行われ、賑わいを見せました。

釜石高校の生徒たちが実現したいと考えたのは、スポーツの力を用いて、高齢者も、障がい者も、子どもたちも、他者に対してオープンになれる「オープンシティ」。

実現に向けた課題は、スポーツに参加して楽しめる人に偏りがあること。80代の方が、今からラグビーをプレーするにはハードルがあるように、スポーツを楽しむには、能力的、体力的、身体的な壁が生じることがあります。そこで生徒たちは、誰でも参加できて楽しめる「eスポーツ」に着目しました。eスポーツとは、コンピューターゲームやビデオゲームを使って対戦するスポーツです。これならば、スポーツが苦手な人でも楽しめるのではないかと考えました。

まず、スポーツが苦手な人も、eスポーツならば、「得意・不得意の壁を超えられるか」検証してみようと、彼らは雨の日の体育の授業に音楽ゲーム「太鼓の達人」を導入します。すると、「他の人より、もっと点数を上げたかった」、「eスポーツをやることで、気持ちを表に出せた」など、スポーツが苦手な生徒からも前向きなコメントを得ることができたそうです。

次に、お年寄りが「年齢・体力の壁を超えられるか」検証しました。生徒たちは、介護老人保健施設「はまゆりケアセンター」を訪れ、おばあちゃんやおじいちゃんに「太鼓の達人」をプレーしてもらいました。初めは躊躇していた方も、参加してみると笑顔を見せてくれ、半身に麻痺がある方も楽しめたことから、年齢や障がいなどの壁を超えることもできたと言います。今後、5GやVR・ARなどの新しいテクノロジーが発達するにつれ、遠隔地の人や視覚、聴覚に障がいがある人でも、一緒に楽しむことが可能になり、さらには、釜石市を訪れた旅行者と市民が、eスポーツを通じて交流することも、実現するかもしれません。

釜石高校のプレゼンテーションより。

<Innovation賞 評価ポイント>

「Innovation」には様々な定義がありますが、「全く関係ないものを新たに結び付ける」という文脈に照らして考えると、釜石高校のeスポーツとお年寄りを結び付けた案は、まさに「Innovation」だったと評価されました。

【Impact賞】 沖縄県立久米島高等学校「2030年 久米島の伝統文化」

沖縄本島から西に約100km離れた久米島で、唯一の高校となる久米島高校。同校の学生が目指した2030年の理想の未来は、「伝統文化を通して、世代を超えた交流が盛んに行われている未来」。そんな想いを伝えるべく、プレゼンテーションには、三線を手に、地元のお店の方のご厚意で貸していただいたという伝統の久米島紬を着て臨みました。

高齢化が進むにつれ、伝統文化を承継する人が減り、やがて失われてしまうのではないかと懸念する彼らは、地元の10代から50代の方々に、「どの伝統文化に興味があるか」と聞きました。すると、エイサー(沖縄の伝統芸能)やハーリー(沖縄伝統漁船による競漕)、久米島紬(くめじまつむぎ:久米島の伝統的技術で作られる織物)に興味がある人は多かったものの、どの世代からも、三線(沖縄三味線)はあまり興味を持たれていないことが発覚しました。

久米島高校のプレゼンより。

ただ、三線の保有率自体は高く、アンケートを取った148人中68人(約46%)の人が、三線を持っていました。アンケートの結果を受け、久米島高校の生徒たちは、三線に改めて興味を抱いてもらおうと、SNSを使った情報発信を始めます。10月にインスタグラムを立ち上げてから、12月10日までにフォロワー数は174人に達し、計818の「いいね」を獲得したと言います。

また、三線の良さを体感してもらうべく、三線教室を2回開催しました。1回目は無料、2回目は有料でしたが、2回目の参加者の方が初回より多かったそうです。世代を超えた交流もできたことから、三線教室は非常に好評で、100%の参加者が「また参加したい」と答えるなど、大盛り上がりだったと言います。

生徒たちの今後の野望は「で~じ三線プロジェクト」。「でーじ」は「とっても」という意味だそうで、3年後に、三線の合同演奏でギネスに挑戦したいと目論んでいます。島民の3分の1が参加すれば、ギネス達成も夢ではありません!伝統文化を通して、これから世代を超えた交流がますます盛んなっていくことでしょう。

<Impact賞 評価ポイント>

社会・地域にとって持続的な大きな価値を与えてくれる予感がするという点で評価されました。久米島高校の皆さんが、実際に地域の皆さんとの交流の担い手になられ、1回目のみならず、今後どう持続していくかを考えて2回目の三線教室も開催していたのが素晴しかったです。

【Technology賞】 愛媛県立弓削高等学校「2030年 離島の働き方」

人口約6,800人の愛媛県上島町は、弓削島、岩城島、生名島、魚島、佐島の5つの離島が合併してできた町。町は少子高齢化と過疎化に悩んでいますが、弓削高校の生徒たちは「若者が輝きながら働ける未来」を作りたいと言います。でも、ここで言う「若者」は、単に若い人を意味しません。生徒たちは、年齢ではなく、「挑戦したい」という気持ちを持つ人を「若者」と定義しました。上島町を、挑戦する気持ちを持つ人が前向きに働ける場所にし、町全体を活性化することが目標です。

そのためにまず、上島町における「チャレンジ」の発信を提案しました。チャレンジをしている上島町民について発信し、他の町民に見てもらうことで、町民の意識を変容させ、チャレンジが身近な環境となり、Iターン・Uターンする人が増えていく、というサイクルの構築を狙いました。

弓削高校の生徒たちは、「たまみちゃんねる」というYouTubeチャンネルを立ち上げ、SNSを用いたチャレンジの発信を試みました。自分たちが校内でダンスをする様子や、秋祭りの練習風景の動画などをアップしてみたところ、「意図が分かりづらい」、「景色をもっと映したほうがいい」といったフィードバックがあったと言います。そこで次に、もっと上島町ならではの特徴を押し出した、分かりやすい企画にしようと、「輝人(きらんちゅ)」探しというシリーズ動画を企画しました。上島町の輝く若者のチャレンジにフォーカスし、その人たちの取り組みを紹介するというものです。

かつて保育園としても使われていた古民家を改装して作った「book cafe okappa」というカフェを営む、移住者の女性二人にインタビューし、上島町の魅力や、今後挑戦してみたいこと、2030年にどうなっていたいか、などを話してもらいました。

弓削高校のプレゼンより。YouTube 「たまみちゃんねる」のワンシーン

この動画では、住んでみたいという気持ちになったというポジティブな意見や、より弓削ならではの良さを映して欲しいなどのフィードバックが得られたと言います。

今後は発信していくことを継続・発展させながら、収益化することで活動を続けていきたいという弓削高校の生徒たち。上島町がチャレンジの町になる未来がとても楽しみです。

<Technology賞 評価ポイント>

テクノロジーには、一つひとつの小さな力や想いを拡大していく、より多くの人を巻き込んで、良い影響を及ぼしていくという特長がありますが、弓削高校の皆さんの、動画を撮って、SNSでチャネルを作って、チャレンジをしたい人にターゲットを絞って、そういった人を増やすためにテクノロジーを活用していたという点がポイントになりました。

【Student賞】 熊本県立小川工業高等学校「2030年のデジタルシティ宇城」

九州の中心に位置する熊本県宇城市。自然に恵まれ、デコポンやレンコンなどの食が豊富でありながら、ベッドタウンとしての役割もある、「ちょうどよい」ところだと言います。

自然とも触れ合え、病院も多く、地の利も良い宇城市は、子育てに最適な場所だと思われますが、子育て中の親50名に、「宇城市は子育てがしやすいですか?」と質問してみると、「いいえ」と回答した人が24%に上ったそうです。その理由には、「子どもが安心して長く遊べる場所が少ない」、「雨の日に遊べるところが少ない」、「親同士の繋がりが少ない」、「文化を学ぶところが少ない」などが挙がりました。

それならばと、小川工業高校の生徒たちが導き出した2030年の理想の未来は、「世界一子育てがしやすいデジタルシティー宇城」。子育てがしやすい場所になれば、宇城市に移住する人も増え、人口が増え、経済が潤い、支援もより手厚くなり、さらに子育てがしやすくなる、というポジティブな連鎖が起き、宇城がいいところになるはず、と考えました。

小川工業高校のプレゼンテーションより。

理想の未来を実現するために小川工業高校の生徒たちが考えたアイデアは、宇城市の子育てプラットフォーム「ウキウキワールド」。子育て中の親が訪れて交流ができるコミュニティセンターと、親同士がつながるオンラインサービスを提供するものです。建築科所属の生徒たちは、親子がいつでも安心して使える、「ウキウキ My House」と命名したコミュニティセンターの模型を実際に作って披露しました。

実際に作った「ウキウキ My House」の模型を披露。

「ウキウキMy House」の模型は4階建て、全フロアにユニバーサルデザインが導入された建物で、蜂の巣のようなベールで覆われています。熊本地震の経験から、震災の際は避難所となり、地震の揺れで発電できる設計です。子ども向けに、VRで絵本の世界を体験できる仕組みなども用意したいと言います。生徒たちはプレゼンテーションの中で、自分たちが役を演じたVR絵本「桃太郎」の動画を披露しました。桃が斬られる時に、中に入っている桃太郎の視点になるなどの工夫がされていて、とっても面白い映像になっていました!

「ウキウキワールド」で提供するもう一つサービス「UKIWA」は、「子育て中の母親・父親の繋がりの輪をつなげるアプリ」です。子育てに悩んでいる人や、ママ友・パパ友がいなくて困っている人たちがアプリ上でつながり、「ウキウキMy House」で実際に会うこともできるという構想です。「UKIWA」のネーミングには、宇城市の子育ての「輪」になることと、溺れている人を浮輪で助けるように、子育てで悩んでいる人を助けたいという想いがこもっています。

<Student賞 評価ポイント>

この賞は、プレゼンテーションを実際に見た生徒の皆さんが「応援したい」、「共感した」高校を選ぶ賞です。ここから社会で新しいコトを起こすには、共感・応援してもらえることが絶対に必要になってきます。そうすることで仲間が増え、やれることが100万倍にもなっていきます。

【IT School NEXT大賞】 広島県立油木高等学校「2030年のライフスタイル in 神石」

広島県立油木高校が掲げたテーマは、「2030年のライフスタイルin神石高原町」。住み続けることができる持続的な町づくりを目指し、地域の可能性について考えました。

神石高原町は、標高400から600メートルの中山間地域にある町で、人口は8,920人。主産業は農業・林業です。そんな神石高原町は、「消滅の町」とよばれていると、油木高校の生徒たちは言います。中国地方の中で、第4番目の消滅可能性都市だそうです。消滅可能性都市は、2014年に日本創成会議が指摘したもので、選定基準の一つに、その市区町村の人口が挙げられています。

油木高校のプレゼンテーションより。

神石高原町では、過去15年間で3,400人の人口が減り、地域産業の担い手は確かに減少しました。ただ、町は産業のスマート化を行っており、「人口減少=(イコール)消滅可能性都市」とは、一概に言えないのではないかと油木高校の生徒たちは考えます。そこで、彼らが定義した本当の町の消滅は、「一人ひとりの人生(ライフスタイル)の数が消滅すること」でした。大規模、集約化に向かうのではなく、地域に対応した人材育成こそが地方創生の鍵なのではないか、そのためには、油木高校生も「地域の魅力の伝承者」にならなければならないのではないか、と考えます。

改めて、油木高校生の休日についてリサーチをしてみると、「バイト」や「睡眠」、「ゲーム」、「買い物」、「趣味」などに時間を費やしており、「地域の魅力伝承」とは、ほど遠い生活の実態が浮かび上がってきました。それを受けた生徒たちはまず、自分たちの暮らしを作り直す必要性を感じます。

彼らは主体的なイベントの実施や拠点作りに取り組みました。地域内または地域外で、さらには地域外の人たちと一緒に、地域内にあるものを活用し、資源循環を意識した活動を行いました。

例えば、古民家を自分たちでリノベーションし、「Chanko」という拠点を作ることに取り組みます。「ちゃんこ」はお相撲さんが使う「親子」という意味のほかに、備後弁で「座って」という意味もあり、高校生だけでなく、親子で座って、地域について考えたり話したりできる空間にという願いを込めました。清掃や本棚作り、机作り、襖の改修など、諸経費は掛かったものの、自分たちの手で空間を創出しました。

油木高校のプレゼンテーションより。

また、FacebookやInstagramを通じて、東京ではできない、神石高原町ならではの魅力を発信しました。そうした活動をするうちに、神石高原町は東京を目指すのではなく、地域らしさを大切にしていこうと再認識したそうです。

今後はSNSなどでさらに発信力を高め、関わる人を増やし、近隣循環を生み出していきたいという彼ら。高度経済成長期は、物の豊かさはあるものの社会関係性が希薄になりがちでした。2030年のライフスタイルでは、暮らしを第一に考え、様々な産業と交流することで、新たな価値の創造をしていきたいと言います。

「ネガティブに思えることも、見方や発想の転換次第。ライフスタイルは無限の可能性を秘めている」と生き生きと語り、プレゼンを締めくくりました。

<IT School NEXT大賞 評価ポイント>

IT School NEXT大賞は、審査員の合議により、「今年の出場チームの中で最も応援したい取り組みへ贈る賞」です。油木高校の「人口減少とは、数字の上で人が減るということではなく、人生(ライフスタイル/生き方)の数が減ること」という本質的な提案や、試行錯誤しながら、地域の中でイベントや拠点づくりなどの様々な活動を、実際に進めてきたことが評価されました。

大賞を受賞した油木高校の皆さん。おめでとうございます!

「やってみる」ことが次への手がかりになる

参加した10校の生徒たちは、全員が自らの視点で、自らの問題に向き合って、理想の未来の実現に取り組んでくれました。閉会の挨拶で、楽天の常務取締役員CWO(チーフウェルビーイングオフィサー)の小林正忠は、「やってみる」ことの意義について、以下のように述べました。

「たった一つだけ、この場で全員にお話ししたいことがあります。それは、『世の中にできないことなんてない』ということです。冒頭に『やってみる』というスライドがあったように、今回皆さんは、幾つもの『やってみる』を実行してみて、やってみた結果、仮説が間違っていたり結果について本当なんだろうかと検証したりしたように、やってみれば、必ず次への手がかりが見つかります。無駄なことは何もありません。やってみないと何一つ進みません。

でも、世の中にはいっぱいトラップがあります。大人とか、社会の常識とか。人類が勝手に作ってしまった常識というものがあり、その常識にとらわれてできないと決めつけている人が、世の中にはいっぱいいます。その最たるものが大人です。大人に『そんなの無理だよ』とか『なにバカなこといってるの?』と言われても、自分を信じてみてください。そして、やってみてください。

やってみると、必ず明日への一歩が見つかります。それが、未来を切り拓く、一番のステップになります。これからも皆さんと共に、我々楽天も『やってみる』ことを大事にしながら進んでいきたいと思います。皆さんと共にテクノロジーで地域社会を、未来を明るくしていきましょう!」

2019年の「Rakuten IT School NEXT」で出会った生徒さんたちとの縁が、今後も続いていきますように。若い皆さんの、これからの活躍が楽しみです!

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