ポストコロナ時代を見据えて~Rakuten Optimism 2021で三木谷が語ったデジタル変革

今年10月に開催した楽天グループ最大規模のイベント「Rakuten Optimism 2021」は、国内外のビジネスリーダーやクリエイターなどのトップスピーカーたちや、楽天グループの役員陣が登壇し、様々なテーマで熱い講演やディスカッションが繰り広げられた2日間となりました。

今回は、コロナ禍での開催となったため、完全オンライン形式(参加費無料)で開催しました。様々な業界から約9万の参加者にご登録いただき、約26.6万の総視聴回数を記録。「楽天エコシステム(経済圏)」がカバーするモバイル、コマース、テクノロジー、フィンテック、マーケティング、サステナビリティ(持続可能性) などの分野において、多様に変化するこれからの世界について考え、デジタルの可能性を感じていただけるような場となりました。

本記事では、ポストコロナ時代への変化、そしてデジタルの可能性について語った三木谷 浩史によるオープニングキーノートについてレポートします。

ワクチン接種の加速、経済活動の再開へ

コロナ禍により、人々の生活様式は変化が求められ、世界ではデジタル化が急加速しました。スピーチの冒頭で三木谷はデジタルによる変革について次のように触れました。

「コロナウイルスによって、この約2年間、世界は大きな変革を求められたのかなと思っております。もしこれがデジタルがなかったら、どんなことになっていたか?リモートワークができなかった。またいろんな形でデジタルのやりとりができなかった。物の売買についても、インターネットショッピングができなかった。というようなことになっていたかもしれないことを考えていきますと、デジタルがあったから、言い方は悪いんですけれども、かなり被害を抑えることができたっていうことも言えますし、経済活動も正常とは言いませんけれどもかなり行うことができ、そして新しい時代に向かった変革が実は大きく進んだのではないかなと思います」

10月初旬の段階で国民のワクチン接種率は1回目が70%を超え、2回目も60%を上回る水準となり、第5波と呼ばれた感染者数の激増は一旦収束の傾向が見られました。行政だけでなく、民間が職域接種に協力して接種拡大に努めた結果が表れてきているのかもしれません。

今年5月、三木谷は新経済連盟の代表として菅前総理に自ら民間企業の協力について提案していました。

「5月の頭頃だったと思うんですけれども、新経済連盟の代表として官邸に赴きまして、そこで菅前総理に、この職域接種というものをぜひ進めるべきだというお話をさせていただきました。普通の医療機関であったり、そしてまた公のワクチンだけでなく、企業を中心に社員だけでなくて、そのご家族であったり、クライアントであったり、カスタマーであったり、あるいはコミュニティを中心にワクチン接種を進めることによって、一気に加速できるんじゃないかという提案をさせていただきました。我々自身も、全国4会場(下図)で職域接種という形、あるいは(自治体実施の神戸市では)我々が実際に運営するという形で接種を進めてまいりました。これまでで約82万回(10月11日時点)の接種を行い、楽天グループとしても社会的な貢献ができたのかなと思っております」


コロナ禍で生まれた“気づき“

そして現在、ワクチン接種の拡大とともに経済は世界各地で再び動き出しています。三木谷はコロナ禍を経て、多くの人に生まれたであろう“気づき”について以下のように述べました。

「(コロナ禍収束後の)ポストコロナ時代ということですけれども、今まで対面というものが原則だったのがそうじゃなくても良いねとか、貨幣や紙幣が通貨として基準だったのが、『これって全部デジタルに置き換えられちゃうんじゃないの、ブロックチェーンでできちゃうんじゃないの?』というような話が聞こえてくるようになりました。ライフスタイルの変化とともに一人ひとりの方に色々な気づきがあり、『この形でやった方ができるよね』、『あるいはこういうふうにやった方が、より利便性が高いし、効率が上がるよね、もっと楽しいよね』というようなことも分かったのかなと思います」

コンサートやスポーツなどのイベントでは、オンライン形式や、オンラインとリアルのハイブリッド形式が以前より一般的となりました。リアルだけで開催するイベントよりも地理的制限がなく、より多くの人に参加いただき開催できるというようなメリットも生まれています。

さらにはサステナビリティ、地球温暖化の問題、多様性をどうやって受け入れて上手く前向きに活用していくか、などを考えていくことの重要性や、イノベーションが新しい社会を創っていくということに多くの人が気づいたのではないかとも三木谷は指摘しました。

社会の変化に適応するビジネスモデル

三木谷は、社会が大きく変化する中において、グループ全体で成長し続けてきたことを次のように振り返りました。

「やはりこの社会がインターネット中心の世界になりつつあります。リアルなプラットフォームがすべてインターネットに置き換わるとは言いませんけども、モバイルの普及とともに明らかに社会が大きく変革しています。その追い風あるいは波に楽天グループはうまく適応しながら成長することができたのかなと思っております」

インターネットの成長とともに楽天グループの売上高も成長してきました。これをけん引してきたアセットのひとつとして三木谷は「楽天ポイント」を挙げ、次のように話しました。

「例えば、最も貯めている・利用するポイントは何ですかというところで、(『楽天ポイント』が)圧倒的人気ナンバーワンのポイントになりました。これは様々な形で幅広く使えるというのが大きな要因になったと思います。(累計発行ポイント数は2002年の)発行開始から今年の8月まででなんと2.5兆ポイント。もうひとつの特徴は、このポイントは90%以上使われているということかなと思いますし、これにより楽天グループの様々なサービスを使ってる方が非常に多くなってきてるということかなと思います」

他にも、近年では「楽天市場」における共通の送料無料(込み)ラインの導入や、日本郵政グループとの資本・業務提携による新しい時代の物流プラットフォーム構築を計画するなど、楽天グループは社会や人々のライフスタイルの変化とともにビジネスモデルを最適化し続けていることについても語りました。

楽天フィンテック経済圏の仕組み

楽天の金融サービスで形成されるフィンテック経済圏について、三木谷は

「銀行もあり、クレジットカードもありQRコード決済もあり、証券会社もあり生命保険もあり、損保もあってこれが統合されて、そしてEコマースと有機的に結び付いている。これは世界に楽天グループしかないと思っています。(中略)楽天のフィンテックのいわゆるお金の流れというものが一気通貫でできているのに加え、会員のエコシステムもできている。このような点において非常にサステナブルな金融エコシステムであると思っております」と楽天グループ独自の持続可能なシステムであると強調しました。

楽天グループサービス間のクロスユースを促進する各種施策により、各サービスにおける顧客基盤が着実に拡大しています。

「楽天銀行」(前身は2000年1月に設立)は「楽天銀行」に商号変更した当時、預金残高がおよそ数千億でした。その金額は今年6月に6兆円を超え、インターネット銀行では初めて1,100万口座を突破しました。

「楽天カード」は引き続き力強く成長しており、今年6月に発行枚数が2,300万枚(2021年10月には2,400万枚を突破)に到達しました。次なる目標として、カード発行枚数を3,000万枚、ショッピング取扱高を30兆円、取扱高シェアを30%にまで成長させる“トリプル3”の達成を目指しています。

「楽天証券」は、「楽天エコシステム」を活用した施策等による投資初心者の取り込みが奏功し、2021年5月には証券総合口座数が600万口座(2021年12月には700万口座に拡大)を突破しました。「楽天生命」や「楽天損保」などの保険事業もオンライン販売が好調で、新規契約も順調に拡大しています。

モバイル事業の“トライアングル戦略”とは

「楽天モバイル」は国内外の携帯会社とは違い、その事業拡大戦略には3つの軸が存在すると三木谷は話します。

1つ目の軸は、日本における携帯電話サービス「楽天モバイル」のMNO事業そのものとしての軸。

2つ目は、楽天グループのショッピングやトラベルのEコマース、あるいはコンテンツ事業やフィンテックサービスなど会員数1億以上の楽天グループサービスによって形成される「楽天エコシステム」と連携することによってシナジー効果を拡大していく軸。

そして3つ目は、「楽天モバイル」のネットワーク構築で培われた完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク技術をパッケージ化して、「Rakuten Communications Platform」(注1)としてグローバルに外販展開するという軸です。この革新的なネットワーク技術を提供するのが、今年8月に始動した通信プラットフォーム事業組織である「Rakuten Symphony」(楽天シンフォニー)です。

「Rakuten Symphony」は、「Rakuten Communications Platform」を含むクラウドネイティブなOpen RANインフラストラクチャに関連するプロダクトやサービス等を集約した、ひとつの新しい事業組織です。世界の通信事業者や企業、政府機関向けに、未来を見据えた、コスト効率の高い、通信用のクラウドプラットフォームを提供しています。

これらについてすでに世界中の注目が集まっており、三木谷はドイツの通信事業社との大型契約についても紹介しました。

「ドイツの新しい通信事業者である1&1社。この企業はISP(インターネットサービスプロバイダ)事業をすでにやっている会社さんなんですが、我々の『Rakuten Communications Platform』のクラウドも含めてすべて採用していくということになりました。このマーケットは巨大です。約15兆円ぐらいのマーケットに2025年にはなるだろうということでやっており、この(通信インフラの)すべてのサービスを提供できる唯一の企業が今のところ『楽天モバイル』であり、新しく作りました『Rakuten Symphony』なのかなと思っています」

組織の名前は様々なソフトウェアが連動し、美しいネットワークを作り出すということから「Rakuten Symphony」と名づけられました。

5G、AIビッグバン後に来る“ゼロキャッシュ時代”

「楽天市場」創業当時である90年代後半はアナログの電話回線を使ってインターネット通信がされていました。その当時と比較すると、通信速度は約10万倍も速くなっており、その加速度は革命的だと三木谷は話します。

インターネットスピードの加速は今後も続き、5GやAI(人工知能)、ブロックチェーンなどの先進技術が社会的な変化を生み出す。その大きな変化を三木谷は“ビッグバン”と例え、その先にはキャッシュレスではなく、紙幣や貨幣が必要とされなくなるような“ゼロキャッシュ時代”が来ると予測しました。

「5G、AIによるビッグバンによって何が変わっていくかということですけども、基本的には、スマートフォンがネットワークインフラ化していきます。そしてすべてのものがIoTでネットにつながっていく時代がもうそこまで来ています。また金融もですね、 “ゼロキャッシュ時代”が到来すると思います。

クレジットカードの支払いが嫌だから現金だけというところがありますけど、よくよく考えてみると、現金をATMに入れるとATMのコストが掛かって、あるいはそれを勘定する人がいないといけないし、正確に金額が合ってるかをチェックもしなくちゃいけない。そういうことを考えていくと、実はキャッシュのトランザクションコストはかなり掛かっています」

すべてがインターネットにつながる時代へ

いまや私たちの生活必需品とも言えるスマートフォン。

通話だけでなく、メールを送ったり、テレビを見たり、音楽やラジオを聞いたり、体重や運動量などを記録して健康管理をしたり、知識や情報を身につけたりと、生活により身近なものになっています。

楽天は、日常生活の様々なモノをつなげるネットワークをさらにインテリジェント化していきます。その鍵となるのが、超高速・大容量、多数同時接続、超低遅延といった特性を持つ5Gであり、5Gを活用した技術のなかでも特にネットワークスライシング技術(注2)に三木谷は注目しています。

「(5Gの普及)これは一般ユーザーの体感的にもすごく重要になってきます。5Gでネットワークスライシングすれば、例えば、このタクシー会社さんだけの5Gとか、あるいはこの金融機関だけの5Gというネットワークを提供することができるようになります。これによって一般的に皆がネットワークをシェアするのではなくて、5Gの世界は、専用の5Gネットワークを提供することができるようになってきます。あらゆる機器がインターネットにつながることによって、有機的に連動してくる。工場もそうでしょう、それから物流の倉庫もそうでしょう、あるいは交通機関についてもですね。すべてがつながってくると思います」

最後に、三木谷は新しい枠組みが国レベルで必要であることを自身の未来観とともに話し、スピーチを締めくくりました。

「ゼロキャッシュ時代、これは必ず来ると思います。ブロックチェーンを活用することにより送金の手数料を大幅に下げることができたり、あるいは紙ベースでやっていたことを大幅にペーパーレス化がすることができるということもあるでしょう。またNFTによっていろんなコンテンツをキャッシュ化して、売上にすることができていくと思います。

行政サイドも、もはや古い世界の仕組み、規制、法律というものは新しいものに変えていかなくてはいけないということです。例えば、シェアリングエコノミー。今まで専用のものしか使えなかったのが多面的に使えることによって一般的に効率化される。あるいは皆が乗り合いすることによってCO2の排出量を節約ができるというようなことです。そういう意味において、新しい枠組み、仕組みを国レベルで作っていかなかればいけないし、それができない国は衰退していくのだろうと思っております。

これから大きく夢のある未来、その変革の中では皆さんが思い切らなくちゃいけなかったり、あるいは多少の痛みもあるかもしれませんが、その先には、僕の言葉で言うと楽天的な良い未来が待ってるんじゃないかなと思います」

Rakuten Optimism 2021 オープニングキーノート(アーカイブ動画):
https://optimism.rakuten.co.jp/2021/day1/session01/

その他セッションのアーカイブ動画もご覧いただけます:
https://optimism.rakuten.co.jp/

(注1)「Rakuten Communications Platform」とは、楽天モバイルが開発を進める4Gおよび5Gのモバイルネットワークを提供するコンテナプラットフォームです。本プラットフォームでは、コンテナ化されたモバイルネットワーク用のアプリケーションが稼働します。
(注2)ネットワークを用途に応じて仮想的に分割すること。

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