ドローンやロボットが当たり前になる未来に!無人ソリューション事業部の挑戦(前編)

将来、日本の労働市場において数百万人もの人手不足が予想されています。少子高齢化や人口減少が進み、労働人口の減少という深刻な社会課題に直面している今、ロボティクスの活用により無人化・省人化を実現する無人化ソリューションが大きな注目を集めています。

楽天においても、この大きな課題の解決に向けて取り組みを強化してきました。無人航空機であるドローンや自動配送ロボットを活用し、物の配送、整備・点検などのサービス提供や実証実験を重ねています。また2023年1月には、それらを管掌する無人ソリューション事業部の組織再編を行い、無人化ソリューションを社会に実装して根づかせるべく、様々なサービスを展開しています。

そして今、無人化ソリューションは過渡期を迎えています。昨年からの法改正によって環境は大きく変化し、実運用に向けた動きが加速しているからです。私たちの日常生活でドローンやロボットが活躍する未来は、すぐ目の前に迫っているといえるでしょう。

そこで本記事では、無人ソリューション事業部の中心人物となる二人にインタビューを実施。事業の概要や組織の変遷、楽天独自の取り組み、そして思い描く未来像についてたっぷりと話を伺いました。ロボットについては無人配送事業課のHiroさん、ドローンについてはドローン事業課のTadashiさんにお答えいただきます。

Hiro: 本取材では無人配送事業の説明を担当。楽天グループ株式会社 無人ソリューション事業部 無人配送事業課 シニアマネージャー。経済産業省にてロボットやドローンの産業振興などに従事。2019年に楽天に入社。現在はロボットやドローンにおける配送サービスの新規事業開発を担う。

Tadashi: 本取材ではドローン事業の説明を担当。楽天グループ株式会社 無人ソリューション事業部 ドローン事業課 シニアマネージャー。外資系消費財メーカー、自動車メーカーにてマーケティングや営業企画に従事。2016年に楽天に入社し、新規事業立ち上げを担当。現在は、建物調査やスクール、操縦士向けのプラットフォーム運営などのドローンサービスを担う。

ドローン事業を担当するTadashiさん(左)と、無人配送事業を担当するHiroさん(右)

人手不足を補う「無人ソリューション事業部」のテクノロジー

-- お二人が所属する楽天グループ株式会社の無人ソリューション事業部について、事業の概要を教えてください。

Hiro: 楽天の中で新規ビジネスの創出をミッションとするインベストメント&インキュベーションカンパニーというものがあります。その中に位置する、無人ソリューション事業部では、ドローンやロボットを使った無人化・省人化の新規ビジネス開発に取り組んでいます。

無人ソリューション事業部の中でも、私が所属する無人配送事業課は、ドローンやロボットを活用した無人配送サービスを手がけています。現在は、昨年11月から毎日茨城県つくば市内において飲食店や小売店からの商品配送サービスの提供を行なっています。

Tadashi: 私が所属するドローン事業課では、配送分野以外の様々なドローンサービスを展開しています。ドローンによる建物点検、ドローン操縦士を育成するスクールの運営、操縦士と仕事をマッチングするプラットフォームの提供が主な事業内容です。

Hiro: 配送の点においては、ドローンもロボットも地域の物流拠点からエンドユーザーが商品を手にするまでの「ラストワンマイル(注1)」や地域の飲食店や小売店からの商品配送サービスへの活用を見据えています。楽天市場などのECやフードデリバリーといった便利な配送サービスが拡大する一方で、配送の担い手不足が課題となっています。2030年にはドライバー不足や物流コストの増加によって全体の物流量に対して約3分の1の荷物は運べなくなると指摘されていますし、「物流の2024年問題(注2)」はもう目前です。ロボットやドローンが地域の配送を担うことで、業界全体のサービスを維持するとともに、利用者にとって便利なサービスをさらに拡大していくことを目指しているんです。

日本の物流が抱える人手不足の課題について
無人ソリューション事業部の事業領域とミッション

-- 人手不足を補う労力として期待されているということですが、ドローンやロボットが自律制御で動いていると考えていいのでしょうか。

Hiro: ロボットは基本的に自動走行し、人や物なども自動で避けて移動しますが、必要に応じて遠隔から操作できるようにもなっています。現在は1台のロボットにつき1人の人が監視していますが、今後は1人で複数台を遠隔監視し、同時に運行する形へ移行していく予定です。

Tadashi: ドローンも配送については自律飛行で、離陸ボタンを押した後は目的地までの設定されたルートと高度に沿って自動で飛行します。そしてロボットと同じく現状はドローン操縦者が常にスタンバイしていて、万が一の場合には手動に切り替えられるようにしています。

一方で配送以外の点検作業などのサービスについてはマニュアル操作の場合が多数です。ドローンに搭載されたカメラの映像をモニターで確認しながら人間が機体を操作することで建物調査や空撮などの業務にあたっています。

自動配送ロボット
自動航行ドローン

楽天エコシステム内で大きく発展させる無人化・省人化の可能性

-- 楽天の無人ソリューション事業部が提供する配送サービスについて、他社と異なる楽天ならではの強みはどんなところにありますか。

Hiro: 楽天はサービスサプライヤーなので、ロボット自体はメーカーが作ったものを利用しています。しかしながら、サービスの運用にあたっては、お店のスタッフやお客様が快適に利用するためのアプリやシステムも必要になります。無人ソリューション事業部では無人配送専用のウェブアプリやシステムを独自開発することで、便利で快適なサービスを提供することに注力しています。「楽天ID」でログインすれば「楽天ポイント」や「楽天ペイ(オンライン決済)」もご利用いただけるようになっています。

Tadashi: ドローン事業においては、三つの事業からなる“ドローンエコシステム”を構築している点で楽天の独自性を発揮しています。スクールにおけるドローン操縦士の育成、操縦士と仕事をマッチングするプラットフォームの提供、配送や点検などからなるサービスの実施。この三つを循環させることで、自社の利益の追求のみならず、産業そのものを大きく育てていこうという強い想いを持っています。

【ロボット】ロボット配送サービスにおける注文から商品受け取りまでの流れ
【ドローン】配送から点検、スクールなど、多岐にわたる楽天のドローン事業
【ドローン】サービス、スクール、マッチングサービスのプラットフォームにより、独自のドローンエコシステムを構築

-- ちなみに、「楽天ポイント」、「楽天ペイ」のほかに、楽天内の他サービスとの連携やコラボレーションの例があれば教えてください。

Hiro: ロボット配送サービスでは、ロボットデリバリー専用の小売店(ダークストア)の形態で「楽天ファーム」の冷凍野菜や果物などを配送しています。またロボットの遠隔監視に「楽天モバイル」の回線を使用している点も、通信事業も担う楽天ならではですね。

Tadashi: ドローン事業においては、「楽天モバイル」の携帯通信基地局の検査・調査業務や、「楽天損保」との屋根部損害調査といった点検業務など、相談や依頼を受けて業務内容が広がっています。ほかにも、「楽天モバイルパーク宮城」のデジタル画像による3Dモデルの作成や「ノエビアスタジアム神戸」の大規模施設の消毒業務、「楽天Kドリームス」と連携した競馬の空撮など多岐にわたるサービスを提供してきました。

-- 様々なサービスとの領域横断的なコラボレーションは、70以上のサービスを持つ楽天ならではの試みですね。

法改正によって近づく、日常にロボットやドローンがある未来

-- 深刻な人手不足に対応する無人化ソリューションのテクノロジーを取り巻く環境は、社会への実装に向けて常に変化しています。昨今は法改正による規制緩和の動きがありましたが、それぞれに関係する法改正の内容について教えてください。

Hiro: 2023年4月に施行された改正道路交通法では、ロボットの公道走行ルールが定められました。自動配送ロボットは新たに「遠隔操作型小型車」として、電動車いすと同等の大きさと速度で、歩道などを走行することができます。また改正道路交通法では、1人の遠隔操作者が複数台のロボットを同時に監視することも認められています。これによりロボットの運用を効率化し、サービスの拡大につなげていきたいです。

Tadashi: ドローンに関係する法改正は二つあり、1つ目は2022年4月に改正された建築基準法第12条1項です。これは、ドローンに搭載された赤外線カメラを用いた建物調査に関係します。同法には改正前まで調査方法として「テストハンマー等」と記載されており、「等」の中にドローンでの赤外線調査も含まれるかは不明瞭な状態でした。しかし、法改正後は「テストハンマー法等 (無人航空機による赤外線調査であって…)」と無人航空機 (ドローン) が明文化されました。これにより、お客様へますますドローンの利活用の提案がしやすくなるだけでなく、お客様も受け入れやすくなりました。

2つ目の法改正は、2022年12月に改正された航空法です。有人地帯での補助者なし目視外飛行(注3)を指す「レベル4」が可能になりました。そのため、例えば市街地や山間部、離島などへの医薬品や食料品などの配送ができるようになりました。

また、これまで民間資格だったドローン操縦士の国家資格制度が定められたことも大きな話題となりました。我々の運営する「楽天ドローンアカデミー」も国交省から承認を得て、国家資格取得のためのカリキュラムを組んでいます。

-- なるほど。法改正によってロボットやドローンを私たちの生活の中で目にする未来がぐっと近づいたように感じました。

前編では無人ソリューションの概要や法改正を含む現状について教えていただきました。後編ではこれまでの活動の歩みや組織の変遷についてお話を聞かせてください。

【ドローン】「楽天ドローンアカデミー」では、ドローン操縦における国家資格取得をサポート

(注1)「ラストワンマイル」……物流工程において、配達物を受け取るお客様(エンドユーザー)の手もとに届く最後の区間や接点。

(注2)「物流の2024年問題」……2024年4月に施行される働き方改革関連法によって、トラックドライバーの時間外労働時間が制限されることで発生する諸問題の総称。ドライバー不足や運賃の値上げ、物流コストの増加などの悪影響が考えられている。

(注3)目視外飛行…操縦者がドローン本体を目視せずに飛行させること。ドローン本体に搭載されたカメラの映像を手元のスマートフォンやタブレットのモニターに映し出して操縦者が操作すること。

※文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。

※後編はこちらからご覧ください。

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