シニア代表!82歳の現役プログラマーに学ぶ(前編)~まずはやってみる~

若宮正子さんというプログラマーをご存知ですか? 2017年2月、81歳で、シニアも楽しめるスマートフォン(iOS)・ゲームアプリ「hinadan」を開発・公開し、注目を集めました。2017年6月には、年に一度開催されるアップルの開発者会議「WWDC」に特別招待され、アップルCEOのティム・クック氏から「世界最高齢のプログラマー」として紹介されると、世界中から大きな賞賛を受けました。

神奈川県在住で、定年前は銀行員として働いていた若宮さん。定年後、まだインターネットが普及途上だった時代に、パソコンを買ってインターネットを始めます。それ以来、様々なプロジェクトに取り組み、シニア層に使い方を教えるなど、アクティブに活動を続けてきました。「hinadan」アプリも、シニア世代に馴染みのあるひな祭りの要素を取り入れながら、シニア世代のスマホ操作に配慮した作りになっています。

2017年11月に行われた「楽天テクノロジーカンファレンス2017」では、IT技術を活用すれば誰でも活躍する機会を得られることを示したチャレンジ精神を称え、「楽天テクノロジー&イノベーションアワード2017」の銀賞が授与されました。

若宮さんがどうして「hinadan」の開発に取り組んだのか。シニア世代や若い世代にとってのテクノロジー活用をどのように考えているのか。いま注目している技術は何か――。若宮さんへのインタビューを、3回に分けてお届けします。


「hinadan」を作るまで

―― ご自身が開発された「hinadan」 が、世界から注目を集めていますね。

「hinadan」が注目を集めたのには、本当にびっくりしました。

―― なぜ「hinadan」を作ろうと思ったのですか?

私は、NPO「ブロードバンドスクール協会」による、ハイシニアにスマートフォンやパソコンの利用を促進するという活動を手伝っていて、パソコン教室なども開催しています。そこでシニアの方から、若い人が使うスマートフォンに対して、「何であんなもんが面白いんだか分からない」という声をよく聞きます。特にスマホのアプリゲームに対して。

私たちが子どもを育てていた当時、子どもの三悪というのは「ゲーム」「アニメ」「マンガ」で、親として子どもに「ダメ」と叱っていた立場でしたから、スマホでゲームをやるというのは忸怩たるものもあるんですよ。

それで、それならと「シニアが喜べるようなゲームを作ってよ」と若い開発者の人にお願いしたところ、「シニアはどんなゲームを喜ぶのか、分かりません」と言われて・・・。そんなとき、知人の小泉さん*に「若宮さんが自分で作ればいいじゃないですか?作り方が分からなかったら僕が教えますよ」と言われ、やってみようと思ったわけです。

(*)株式会社テセラクト代表取締役、東北デベロッパーズコミュニティ運営委員、Code for Japan理事の小泉勝志郎氏

―― ひな壇をゲームにするというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

伝統的な日本文化を後世に伝えたいという思いがありました。その中でも特にひな祭りには、華やかさがありますから。また、参加しているチャットのコミュニティーで毎年3月に、「電脳ひなまつり」というネット上でのひな祭りイベントを開催しているんですね。日本各地で異なるひな祭りの風習などを紹介したり、情報交換をしたり。

どうせゲームを作るなら、そのイベントでお披露目したら?と言われ、イベントまで半年しかなく「それまでに作るなんて無理」と思いましたが、まずはやってみることにしました。

―― アプリ開発で大変だったことは何ですか?

私は長年のWindowsユーザーなので、Macを使いこなすのに苦労しました。アップル社の「App Store」からアプリを出すならiPhoneを使わないとアプリ動作のシミュレーションもできないので、そのためにMacとiPhoneを買って、本もいくつか買って、使い方を勉強しました。

ただ、一つ一つの断片的なことは勉強できても、プログラミングの全部を把握するのは困難でした。英語学習に例えて言うなら、単語は分かるけど、物語全体の話は理解できないという感じです。小泉さんに教えてもらうといっても、私の家は神奈川県にあり、小泉さんは宮城県にお住まいなので、主にメッセンジャーやスカイプを使ってやり取りをしていました。後から考えてみれば、データのやり取りが簡単にできたので、効率的で、遠隔授業の良さを実感しましたね。

また、英語を使うのにも大変苦労しました。プログラミングは言語そのものが英語で、エラー表示やアプリ申請にあたってのアップル社とのやり取りも全て英語・・・。私たちの世代は、戦時中に「英語を使ってはいけない」という教育を受けているので、英語アレルギーがあるんです。野球の「ワン・ストライク、ツー・ボール」も「一・良し(イチ・ヨシ)、二・駄目(ニ・ダメ)」と言っていたくらいですから。英語アレルギーのない人が、うまくやっていけているのかなと思います。

Screen capture of Wakamiya's award-winning Hinadan app.
「hinadan」はそれぞれの人形を、ひな壇の正しい位置に移動させるゲーム

シニアプログラマーとして

―― プログラミングをやっていて楽しいのは、どんなところですか?

やっぱり、アプリが思ったように動いてくれるとうれしいですね。「音が鳴ったら、ひな人形がこう変わる(動く)」と設定して、ちゃんとそのとおりに動いてくれたら、感動します。

―― 開発者として、シニア世代であることの利点は何でしょうか?

自分がシニアなので、シニア世代のことがよく分かることです。例えば、普通のスマホアプリだとドラッグ&ドロップの操作は一般的です。でもシニアだと、指先をちょっと動かすのが思ったようにいかないことがあって、特にスワイプ操作が難しいんですね、実は。そういったことから「hinadan」アプリは、タップ操作だけで動かせるようにしています。タップであれば、日ごろATMや駅の自動券売機を利用しているシニアでも、できる操作ですから。また、アプリの使い方説明は、「タップ」という言葉を使わず「画面を軽く『トン』と押してください」と、シニアに分かりやすい表現にしています。

―― シニア向けのアプリなどを作りたいという若い開発者へのアドバイスはありますか?

以前、メーカーの若い技術者の方から「シニアのニーズを聞かせてください」と言われた時に、「シニアのニーズを知りたければ、自分のおじいちゃん、おばあちゃんのところに行って、自分の製品を使ってもらって、使い方を研究したほうがいい」と答えました。

若い方にはシニア世代の実感は想像しづらいことが多いのかもしれませんが、私のような(ITに造詣が深い)物好きの意見は参考にならない、と(笑)。

中編に続きます。)

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