誰が作り、運んだか。サプライチェーンへの想像力が消費を変える
(本記事は、2020年6月29日にNewsPicksにて掲載された記事の転載です)
コロナ禍で経営が厳しい飲食店や生産者から、行き場を失った商品を直接購入するなど、「応援消費」への関心が高まっている。誰かをサポートできるだけでなく、自分たちにも商品としてのリターンがあり、対等かつ気軽に行えるとして、「寄付」を苦手とする日本人にも受け入れられているようだ。
それに先駆けること約2年。広く世界に対する応援消費、いわゆる「サステナブル消費」を実現してきたのが、楽天が運営する「EARTH MALL with Rakuten」だ。ここでは環境、社会、経済に配慮し、持続可能な形で作られた商品が取り揃えられ、誰でも簡単にサステナブルな購入体験ができる。 サイトアクセス数は前年比5.3倍、売上も50%増と堅調な成長をみせる「EARTH MALL with Rakuten」から、今後の日本人の消費傾向を占う。
日本人の消費傾向はどう変わったのか
コロナ禍で、日本人の「応援消費」への関心が高まっている。
自粛要請などにより経営が厳しい飲食店や生産者から商品を直接購入するだけでなく、オンラインで物産展を開いたり、ふるさと納税を活用して生産者を支援したりと、さまざまな「応援」プロジェクトも立ち上がっているようだ。
無自覚でいると、「できるだけ安く、良いものを」という自分にとって都合の良い消費になりがちだが、今回のような世界規模の災厄によって気づくこともある。
ある「もの」を選び、買い、消費するという行為は、「もの」に関わる生産者や事業主の活動に賛同し、応援する意思表示にもなるということだ。
「未来を変える買い物を。」をコンセプトに、2018年11月にグランドオープンした「EARTH MALL with Rakuten」は、「サステナブル消費=広く世界に対する応援消費」を先駆けて実現してきたECモールと言える。
ここでは、「楽天市場」が取り扱う約2億7000万点(2020年6月時点)の商品の中から、FSC認証(森を守り、必要な分だけ切られた木材)やMSC認証(海の資源や環境に配慮した漁業)、ASC認証、RSPO認証、国際フェアトレード認証、レインフォレスト・アライアンス認証、GOTS認証という7つの国際認証を取得した商品を中心に、環境、社会、経済に配慮し、持続可能な形で製造された商品をピックアップ。
「楽天市場」での買い物と同じように、誰でも簡単に「サステナブル消費」を体験することができる。
「EARTH MALL with Rakuten」の立ち上げメンバーの一人である、サステナビリティ部の眞々部貴之氏は、日本におけるサステナブル消費の広がりを肌で感じている一人だ。
「SDGs等への関心の高まりとともに、ユーザー、従業員、出店店舗などさまざまなステークホルダーが、楽天に『サステナビリティ』を求めるようになりました。
具体的には、『楽天市場』においてオーガニック、フェアトレードなどのサステナブルな商品の数が増え、そういったキーワードに反応するユーザーも増えているという感覚ですね(実際、2019年5月に『楽天市場』のユーザー1万人に行った調査では、45%が『サステナブルな買い物経験がある』と答えている)。
それに応えるべく、『サステナブルなお買い物』の文化を育てる場として立ち上げたのが、『EARTH MALL with Rakuten(以下、アースモール)』です」
オープン当初は約7000点の商品からスタートしたが、約1年半後の2020年5月時点では3万1000点を超えるラインアップに。売上もプレオープン期を含む2018年4月から2019年3月までと2019年4月から2020年3月までの期間を比較すると、50%増と順調な推移をみせる。
「楽天市場」だけの数字ではないものの、「楽天市場」や「楽天トラベル」などのサービス・事業を含む19年の「国内ECの流通総額」は3.9兆円で、伸び率は前年同期比13.4%増であった。比較すると、アースモールの伸び率がいかに高いかがわかる。
「売上に比例して、アースモールのサイトアクセス数も前年比5.3倍をマークしました」と眞々部氏。これは、サステナブルな商品に関心を持つ人=日本全体のサステナビリティへの意識の高まりを反映した結果と言えるだろう。
「自分のため」の消費から、「世界を変える」消費へ
「EARTH MALL with Rakuten」における商品点数の増加を見れば、ユーザーだけでなく、出店店舗側にも変化があったのは明らかだ。具体的に、どのような変化があったのか。
「アースモールは楽天市場に出品された商品をピックアップするキュレーション型のECモールなので、アースモール単体での出店店舗はありません。ただし、サステナビリティに配慮した商品を扱う店舗の方から、『アースモールがあるから楽天に出店を決めた』という声をいただくことは増えてきましたね。
私たちは、サステナブル消費に特化したサイトとしては日本最大規模です。『アースモールに参加することで日本全体の消費を変えていけるのではないか』という期待の表れだと考えると、背筋が伸びる思いです。
また、楽天は出店店舗様向けにオンライン学習コンテンツを提供しているのですが、SDGsやアースモールに関する動画が2019年の年間再生回数のトップ5に入りました」
楽天が提供するオンライン学習コンテンツの数は、1400本にものぼる。
なかには、「上手な商品写真の撮り方」「テスト運営のノウハウ」など、明日から使えるような動画も含まれることを踏まえれば、出店店舗側のサステナビリティへの関心の高まりは相当なものだと言えるだろう。
ユーザー・事業者双方の意識の高まりによって、にわかに盛り上がりつつある「サステナブル消費」だが、この消費傾向は今後も続くのか。ここにひとつ、楽天が行った興味深い調査データがある。
誰もが肌では感じていたことだが、新型コロナウイルスによる社会の変化、ライフスタイルの変化により、「私たちの消費行動にも少なからず変化が生じている」という結果がすでに出ているのだ。
眞々部氏はこの結果を次のように分析する。
「新型コロナという特殊な感染症の拡大により、多くの人が『どこで、誰が、どのように作り、運ばれたのか』という商品のサプライチェーンに対する想像力を身につけました。このことが与える影響は非常に大きいと思います。
サプライチェーンの源流に思いを馳せるようになれば、日常の買い物にも自覚的になる。その結果、『世界にとってより良いもの』を選択することになり、自然とサステナブルな買い物に対する意識も高まったのでしょう。この良い流れを止めたくないですね」
今日の私たちの買い物はサステナブルか?
ここまでで、「サステナブル消費」が「意識の高い層」だけでなく一般に浸透しはじめ、ある種のムーブメントとなっている日本の現状が見えてきた。これを一過性のものに終わらせず、ウィズコロナ・アフターコロナのスタンダードにするために、楽天はさまざまなことに取り組んでいる。
そのひとつが、ECモールでは珍しい独自のウェブマガジン「EARTH MALL with Rakuten Magazine」の存在だ。
「以前行った調査で、『サステナブルだという意識がない状態でサステナブルなお買い物をしている人』が3割以上いることがわかりました(2019年5月、楽天市場ユーザー約1万人を対象に調査)。
サステナブルな買い物というと、環境への配慮がイメージされやすいのですが、実際には持続可能な生産・生活を支える『フェアトレード』の観点も含まれます。
『実はその買い物もサステナブルですよ』と伝える、いわゆる啓発活動を行うことで、無意識にサステナブル消費を行っていた人を、一段階上のフェーズに引き上げられるのではないか。
その一端を担うのが、オープンと同時に立ち上げたウェブマガジンです。自然とサステナビリティを感じ取ってもらえるような、肩肘張らないメディアを目指しています」
たしかにこれまでのサステナビリティに関する情報は、公的機関から発信されるケースが多く、表現が難解だったり、内容が高尚すぎたりして、逆に人を遠ざける雰囲気があった。
「EARTH MALL with Rakuten Magazine」を覗いてみると、アースモールに出品されている商品を生産者のストーリーとともに紹介した記事や、「予算1000円」で編集部員がプレゼント交換をする記事など、眞々部氏の言葉通りの肩肘張らない雰囲気だ。
こういった発信をきっかけに、実際に買い物という「行動」をする人が増え、サステナブル消費は徐々に私たちの「当たり前」になっていくのだろう。しかし、そこに到達するにはまだ課題もある。
「商品数はオープン当初の4倍以上になっていますが、3万1000点という数字は楽天市場の全商品の0.01%にすぎません。ネットショッピングに慣れた私たちが『ここに来れば何でも揃っていて、お買い物を楽しめる』と感じるために必要な商品数は、100万点ほどでしょうか。
現在は国際認証を取得した商品を中心にピックアップしていますが、今後は脱プラや地域経済への貢献など、さまざまな側面から評価を行い、サステナブルで楽しい買い物体験ができる品揃えを実現していきたいですね」
それが「サステナブル」のハードルを下げることにならないよう、楽天は現在、外部の有識者と独自の「サステナブル」の基準を設定すべく、共同研究を行っているという。
サステナブル消費のムーブメントは、コロナ禍を経てより大きな波となり、私たちの消費の「当たり前」を変えつつある。「もの」を選び、買い、消費するという行為が世界を変える日は、そう遠くないのかもしれない。
( 制作:NewsPicks Brand Design 取材・文:大高志帆 デザイン:堤香菜)