ファミリーマートと楽天のCMOの意思決定を深掘りする ― 顧客価値を事業成長につなげるために

パシフィコ横浜で開催された楽天グループ最大級のビジネスイベント「Rakuten AI Optimism」。本セッションでは、株式会社ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター CMO 兼 マーケティング本部長 兼 デジタル事業本部長の足立 光氏と、楽天グループ株式会社 取締役 副社長執行役員 グループCMO の河野 奈保が登壇。両社CMO同士の対談が行われました。
顧客を理解し事業成長につなげるために、CMOはどのような役割を担い、意思決定を行うべきか―。本記事では、セッションの内容をダイジェスト版でお届けします。
「SPU」にファミリーマートが参加
河野: まず、なぜこの場に足立さんをお迎えできたか。きっかけは、楽天グループが提供している「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」への、ファミリーマートの参加でした。
「SPU」は、楽天グループのサービスを組み合わせて使うほど「楽天市場」でのお買い物がポイントアップするプログラムです。今回「楽天ポイントカード+ファミリーマート」がグループ外企業として初めて「SPU」の対象サービス(注)となりました。
ファミリーマートで「楽天ポイントカード」を提示し、月間3,000円(税込)以上お買い物をすると、条件達成月の「楽天市場」でのお買い物に対して進呈される「楽天ポイント」が+0.5 倍になります。今年7月1日から提携を開始しましたが、どのような状況でしょうか?

足立: 以前と比較して、ファミリーマートで「楽天ポイントカード」の提示率が4ポイント増えています。来客数にも貢献があり、本当に始めて良かったと思っています。まだ認知が上がりきっていないと思うので、今後さらに数字が良くなっていくことを期待しています。
河野: ファミリーマートとの「SPU」の取り組みを知った際、どのような行動変容が起こるのかアンケート調査を行ったところ、「ファミリーマートでの買い物を増やしたい」が54.8%、「楽天市場の買い物をもっと増やしたい」が56.2%、「楽天ペイをファミリーマートで使ってみたい」が51.1%という結果となりました。もうポテンシャルしかありません。「SPU」におけるファミリーマートと楽天グループの掛け合わせが、オフラインとオンラインをつなぐ新ポイ活になっていくと思います。

ファミリーマート、楽天グループのマーケティング戦略
河野: 足立さんの経歴を振り返ると、シュワルツコフ ヘンケルの代表取締役社長と取締役会長、日本マクドナルドの上席執行役員 マーケティング本部長、そして現在はファミリーマートのマーケティング責任者と、マーケティングの領域をはるかに超えた経営をされています。
足立: 6年前からファミリーマートでマーケティングの統括をしています。何をしているのか、簡単に言うと3つです。まずファミリーマートが提供している価値を再定義し、「もっと美味しく」「たのしいおトク」など、5つのキーワードを設定し、それに沿った発信を継続的にするようにしました。

2つ目は、話題化する新施策。それは必ずしも新商品ではなく、例えば定番商品のリニューアルや、増量キャンペーンなどを打ち出しました。
3つ目は、来店理由の多様化。コンビニ=食品や飲料のイメージがあると思いますが、それ以外の理由を作ってきました。例えばソックスやパンツ、多様なIPとのコラボなど、ファミリーマートにわざわざ行く理由を生み出すようにしてきました。

河野: 楽天の状況としては、AIで業務プロセス自体を大きく変え、顧客の価値最大化を狙うべく、マーケティングを進化させています。例えば、ユーザーの属性だけではなく、行動データなどを基にした潜在ニーズをはじき出す。そしてユーザーをより理解し、マーケティングに生かしていく。結果、一人ひとりにより良い体験を提供する。そこに向かって基盤作りをしています。
これまでのマーケティングプロセスは、顧客のデータを分析し、ペルソナ、コンセプトを設計して、クリエイティブを作るという一連のプロセスが工程ごとに行われていました。現在はAIとデータによって、すべてではないですがこれらの工程がつながり、さらにAIによって学習してより良い結果を導くサイクルに進化していっています。

CMOに求められる役割とは
河野: 世界のCMO配置状況を見ると、米国や欧州ではCMOというポジションが7割の企業で設置されている一方で、日本は後発という状況です。
足立: 特に流通業はそうかもしれません。僕がファミリーマートに入った6年前のタイミングで、CMOのポジションがあるのは私の知る限り1社だけでした。ただ、CMOのポジションがないこと自体が悪いわけではないですよね。
河野: CMOの役割は会社によって違うため、定義が難しいという点もありますよね。
足立: 会社によってCMOの役割は全然違いますね。河野さんは70を超える楽天の事業をすべて率いていますが、ファミリーマートは一事業。ですので、細かいところまで全部入っていくブランドマネージャーという感じです。一方、河野さんのようにたくさんのブランドがある場合、その最適化を図ったり、それぞれをつないでいったりするのが主な仕事になります。
なぜCMOは短命と言われたのか
河野: CMOはよく「短命」ともいわれていますね。
足立: CEOより給料は安いのに仕事は大変。すぐにクビになってしまう。そういう仕事だといわれています。CEOの在任期間は平均7.6年なのに対し、CMOは平均約4年です。
河野: 業界自体がどんどん変わっていく中で、変化に適応して新たなポジショニングを確立し、ユーザーのニーズにも付いていかなければなりません。

足立: まだSNSがなかった頃は、広告担当者がコミュニケーションのすべてだったこともあり、広告的なコミュニケーションをしている方がCMOと呼ばれることが多かったですよね。でも今はいろいろなツールができて、手段が多様化した。
お客様によって見るものも全然違う状況になり、複雑性は増していますし、難しさも間違いなく増している。そういう意味では、簡単な仕事ではないと思っています。
河野: 足立さんは、日々変わっていく世の中や自分と違う世代についてどうやって情報を得ていますか。
足立: 僕は、自分の世代でないことは分からない前提でいます。10代、20代が何を考えているか分からないですから。ただ、全く分からないと何もできないので、違った業界、違った世代、違った国の方々とできるだけ会うようにして、知らない世界をできるだけ知るようにしています。
メディアに関しても、できるだけ自分と違う世代が見ているものを見るようにして、SNSも普段自分とは関係ない人ばかりフォローしています。楽天は比較的平均年齢が若いですよね。
河野: そうですね。楽天グループには、AIに対してもそうですが、進化に対して楽しんで取り組んでいる若い世代が多くいます。私も好奇心旺盛な方なので、知りたいし、付いていきたい。なので、若い世代に対して積極的に「教えて」と声をかけるようにしています。

足立: アメリカだと、最近はCMOという名前が「チーフ・グロース・オフィサー」になったりしている。グロース=成長のすべてです。コミュニケーションだけではなく、成長に関するすべての責任を持つポジションになりつつある。
状況は複雑になってきたけれど、マーケティングに求める役割は、利益・売上に戻ってきたように思います。
河野: 結果まで追えるようになったのは大変ですが、やりがいしかないですよね。
足立: マーケティング業界の方々は、キャリアという意味ではもう2択しかないと思っています。コミュニケーション、SNS、マスメディアも含めて全部見ることによって利益や売上を伸ばしていくグロースオフィサーを目指すのか。または、デジタル、SNS、リサーチというような、一つ一つのエリアでスペシャリストを目指していくか。
河野: 足立さんはどこに向かいますか?
足立: グロースの方ですね。河野さんはどうですか?
河野: 私はデジタルから来ましたが、やはりオフラインの強さ、大切さを身にしみて感じています。ファミリーマートとの取り組みはまさにそうで、全国の拠点で一緒にコラボするからこそ、今までにないユーザー層が見えてきました。
そういった意味でも、オフライン、オンラインをつなげるマーケティングをもっと行っていきたい。事業を成長させるためのマルチな存在として、色々なモノ、人のハブになる仕事をしたいと思います。
足立: ファミリーマートでは、僕はコミュニケーション以外のところは本来は仕事の範疇ではないんですよね。だけど、「これは行ける」と思ったらどんどん首を突っ込んでいく。どちらかというと僕はつなぐ方より、会社を伸ばすために必要なことをどんどんアグレッシブに推進していく方だと自負しています。業務範囲にかかわらずやっていきたいですね。
河野: 線引きをせず、顧客のために一歩踏み込んで、組織をまたいででも自分たちで仕事を作っていく。それが最も重要なことだと思います。
足立: インフラという意味では、楽天もインフラだし、ファミリーマートもそう。オンラインとオフライン、どちらも大事です。今後もまた新しいことを一緒にしていけると思うので、ぜひ注目していただければと思います。
(注)「SPU」詳細ページにおける「対象サービス・達成条件一覧」掲載サービス
https://event.rakuten.co.jp/campaign/point-up/everyday/point/
※2026年8月時点の内容となります。




