多様な働き方が進む、今こそ意識すべき「コレクティブ・ウェルビーイング」~持続可能なチームに必要な「三間(さんま)と余白」とは?~

コロナ禍を契機に、在宅勤務や時差出勤をはじめとした時間や場所に縛られない働き方が浸透し始めています。従来よりも柔軟な働き方ができるようになりつつある一方で、従業員同士の交流機会が減少し、自身の働き方や組織の在り方について悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

楽天グループ内で、組織と個人の関係性、それらに関わる企業文化づくりに特化した研究を行っている「楽天ピープル&カルチャー研究所」では、企業や働く個人の方に向けて様々な研究成果を公開しています。

その中から今回は、ニューノーマル(注1)時代において、心身共に良好な状態で働けるように、組織において互いが配慮し合いながら「ウェルビーイング(良好)」な状態で働くことを目指す「コレクティブ・ウェルビーイング」についてまとめたガイドラインを紹介します。

ガイドライン作成の経緯や持続可能なチームづくりのポイントとして、働く上での「仲間」、「時間」、「空間」の3つの要素を「三間(さんま)」と呼び、組織内で従業員同士がこの各要素に「余白」を設けることを意識する重要性を説いている、「楽天ピープル&カルチャー研究所」代表の日髙達生さんにお話を伺いました。

(注1)ここでは、新型コロナウイルスの存在を前提とした、新たな常態(新常態)を「ニューノーマル」として定義。

楽天ピープル&カルチャー研究所 代表 日髙達生さん
2018年に楽天に入社し、シンガポールのアジア統括会社のジェネラルマネージャーを兼務しながら、本社のコーポレートカルチャー専門部署のジェネラルマネージャーとして、楽天グループ全体かつグローバルでの組織開発と理念共有を推進する組織の統括を担当。同年に企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し代表に就任。

課題に先行直面する楽天での検証結果を公開

――初めに、「楽天ピープル&カルチャー研究所」について教えてください。

まずは「楽天ピープル&カルチャー研究所」の設立背景からお話しできればと思います。

大きく2つの理由があるのですが、ひとつは、2006年に設立された「楽天技術研究所」という技術研究機関の存在がきっかけとなっています。「楽天技術研究所」は楽天グループにおいて、テクノロジーに関する様々な研究や開発を行う機関で、その研究結果は楽天のビジネスだけではなく、外部の企業にも活用いただいています。同じように、人や組織について研究し、社内外で役立つ理論の確立を目指すことで、個人の働き方や組織マネジメントについて活性化できないかと考え始めたのがきっかけですね。元々私は、グローバル人材の育成や組織開発に関わっていたこともあり、楽天に入社後もその分野に携わっているのですが、企業経営において人や組織について考えることは非常に重要であると考えていました。

2つ目は、楽天グループの“イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする”というミッションを体現することに関連しています。楽天が社内公用語を英語にしたことは多くの方に知っていただけているのではないかと思うのですが、これにより楽天では人材の多国籍化が進み、現在では70以上の国や地域から2万人以上の従業員が働く企業へと成長しました。その一方で、真のグローバル企業を目指していく中では、企業文化や働き方に関して、他の日本企業よりも早く課題に直面することも多くあります。そこで、中長期的な視点を持ち、社内の人や組織が抱える課題に対して、社内外の最先端の情報を集めて研究し、その研究結果を社外に発信していくことで、社会全体としてより良い組織や働き方を実現することに貢献できるのではないかと考えたのです。

このように研究所の構想について思いを巡らせる中で、社長の三木谷やCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)の小林と3人で話し合う機会があり、人や組織に関する研究やその成果を外部にも発信するといった活動の方向性に対して賛同を得て、最終的に研究所として設立することが決定しました。

そこからは、人事領域をはじめ多様な分野で活躍されている専門家の皆さんにお声掛けをして、有識者として参加いただくなどの協力を得ました。構想から約半年をかけて、2018年の10月に「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立することができました。

設立後は、世界中の先駆的な事例や研究成果を収集しながら、楽天グループ内で検証を行い、革新的な理論の確立とソリューションの創出を目指して、「人材・組織・企業文化」に関するテーマ全般を研究しています。今回発表した「コレクティブ・ウェルビーイング」に関するガイドラインはその研究成果のひとつです。

働く環境が変化する今こそ、考えてほしい「ウェルビーイング」

――そもそも「ウェルビーイング」とは、どのような考え方なのでしょうか。

「ウェルビーイング」とは元々、第二次世界大戦後の1948年にWHO(世界保健機関)が出した憲章において提唱されたもので、健康な状態は怪我や病気がない状態ということだけでなく、身体的、精神的、社会的、すべてにおいて良好な状態(ウェルビーイング)であることを意味します。

日本では1980年代の金銭的な豊かさが幸せを後押ししていた高度経済成長期の後に、徐々に働き方の在り方について考える人が増えてきたことで少しずつですが注目されつつあるテーマです。

――コロナ禍において働き方の変革が進んでいますが、このタイミングで「ウェルビーイング」について改めて考える機会を提供した理由はあるのですか。

以前から働き方改革に取り組む企業が徐々に増えてきてはいましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、4月に政府から緊急事態宣言が全都道府県に出されたことで、働く環境を急速に変えざるを得ない状況になってしまいました。

在宅勤務や時差勤務、ソーシャルディスタンス(社会的な距離)を保つためにオンラインでの会議が主流となるなど、働く環境が突然変わったことに戸惑いもあったかと思います。それに加え、従来の職場ではできた「仲間」との雑談の機会が減少し、人と人がつながりにくい状態になってしまい、孤独感を感じる人もいたのではないでしょうか。

また、オンラインでの会議の場合、会議と次の会議の間で移動する必要がないことから、隙間なく予定を詰め込み、切羽詰まった「時間」の使い方をしてしまう人が増えてしまっていたこと、自宅のインターネット環境の整備や働くスペースの確保といった働くための「空間」の環境づくりに苦労された方もいたと思います。このように以前はあまり意識せずにうまく調整できていた「仲間」、「時間」、「空間」を、個人で考えていく必要が出てきたのも、大きな変化だったと言えます。

そこで、こうした変化の時期だからこそ、改めて個々の「ウェルビーイング」について自問自答してもらうことで、ニューノーマル時代においても最適な状態で個人が働けるきっかけになるのではないかと考え、ガイドラインを策定し公開しました。

組織として取り組む。楽天の実践例

――「ウェルビーイング」ではなく、「コレクティブ・ウェルビーイング」としてのガイドライン作成の意図は。

「ウェルビーイング」はどうしても個人の心身の健康状態として解釈されることが多いのですが、直接仲間と顔を合わせる機会が減っている現在の状況だからこそ、個人だけでなくチームとしてお互いを配慮した上で「ウェルビーイング」を考える必要があると考えています。そのことを皆さんに意識してもらい「ウェルビーイング」を組織としてお互いに正しく考える機会になればと思い、「集団的な」という意味の「コレクティブ」という言葉を添えた、「コレクティブ・ウェルビーイング」という概念のガイドラインを作成することにしました。

ぜひこのガイドラインを通して、個人では自身の「ウェルビーイング」について自問自答していただくきっかけに、企業の経営者や管理職、人事部門の方々にはマネジメントの一環として組織運営に取り入れることを検討するきっかけとしてもらえれば幸いです。

――楽天で実際に実践している「コレクティブ・ウェルビーイング」は?

「コレクティブ・ウェルビーイング」ガイドラインより抜粋。

楽天の取り組みはガイドラインにも記載されているので、詳しくはこちらをご覧いただければと思いますが、象徴的なところでは、創業時より実施している全社会議の「朝会」をオンラインで毎週開催したり、新入社員向けに三木谷によるオンラインでの朗読会を実施したりするなど、在宅勤務対応が続く中でも、経営陣が意図的に従業員と接触する機会を増やしています。

また、遠隔でも仲間の仕事の状況やコンディションを把握するために、朝や夕方にチームでのハドルミーティング(注2)を行うことが会社より推奨されたことも、チームワーク強化という点で有効な取り組みでしたね。

ガイドラインには「コレクティブ・ウェルビーイング」のチェックリストも含んでいるので、この機会に楽天の取り組みについても照らし合わせて評価してみたのですが、8割近く達成できており、従業員の「ウェルビーイング」に対して思いを持っていた会社なのだなと改めて実感しましたね。

(注2)元々はアメリカンフットボールの選手たちが試合中に行なうミーティングで、ビジネスシーンにおいては短時間の会議で、情報共有や各自の課題解決を行うために実施されている。

持続可能なチームであるための「三間(さんま)と余白」とは?

――「コレクティブ・ウェルビーイング」のガイドラインの中で、「三間(さんま)と余白」を意識することをポイントとして挙げられていますが、具体的にはどういうことなのですか。

このような状況下で強く感じたのが、仕事をする上で「余白」は欠かせないものであるということでした。余白と一言でいっても、色々あると思いますが、私自身の場合、コロナ禍で在宅勤務になった当初は、オンラインということもあって立て続けにスケジュールが埋まり、事前に十分な準備ができずに会議に参加せざるを得ないことがありました。結果的に会議での確認事項が多くなり、効率的に実施できないことも。その時に、これまで時間の余白があったからこそできたことがあるのだなと改めて実感したのです。

そこで、働く環境が変化する今だからこそ、「仲間=従業員同士をつなぐ工夫をすること」、「時間=時間を区切って節目を作ること」、「空間=働く空間を整えること」のそれぞれを個人でも考えつつ、自身の「間(余白)をデザイン」することを推奨していこうと思いました。

ちなみに余談なのですが、このような概念を浸透させるのには、皆さんの間でいかに話題に挙げてもらえるかが重要ですので、言葉選びを「楽天ピープル&カルチャー研究所」の有識者として参加いただいている石川善樹さんにも相談しながら、キャッチーなものになるように意識しました。「間」に関しては、「仲間」、「時間」、「空間」以外にも挙げることは可能だったのですが、「さんま」という言葉にまとめることで覚えてもらいやすいかと思い、「三間(さんま)と余白」という形で推奨していくことを決めたのです。

――今回、「三間(さんま)と余白」を実践する上でのツール集を作成したとのことですが、使い方をご紹介いただけますでしょうか。

個人向けツールとして、「三間と余白」のコンセプトをカレンダーにした「さんまカレンダー」を作成しました。個人が、日々の生活の中で「三間と余白」について意識したりしてもらうきっかけに使用いただくのはもちろん、例えば管理職の方には、オンライン会議の背景画像に活用いただき、雑談のきっかけとして使う機会があっても良いのではないかと考えています。 その他にも、1on1ミーティングなどにおいて、話し合うテーマを決める際に使用できる「さんまサイコロ」も用意しました。

よろしければ、「コレクティブ・ウェルビーイング」の特設ページからご覧ください。

■ニューノーマル時代に向けて、コレクティブ・ウェルビーイングを考えよう
https://corp.rakuten.co.jp/collective-well-being/
(ガイドラインと個人向けツールはページ下部の“ガイドライン/ツール集”箇所よりダウンロードできます)

――最後に「コレクティブ・ウェルビーイング」を意識して働く上でのアドバイスやメッセージがあればお願いします。

今まさに、変化が起きている時代において、企業は柔軟性に富んだ働き方の選択を提供していることもあり、「いつ・どこで・どのように」働くかを、個人やチームがある程度自分にとっての最適解をデザインすべき環境にあると思います。そのため、一人ひとりがより高いパフォーマンスを発揮するために意識的に自問自答する機会を持ち、自分自身の「ウェルビーイング(最適な状態)」をつくり、チームに貢献していくことが重要です。

そうしたニューノーマルな時代において、組織と個人を考える一助として、今回の「コレクティブ・ウェルビーイング」が何らかの形でお役に立てたら嬉しいです。


コロナ禍において柔軟な働き方が浸透しつつある中、改めて自分の働き方を見直してみてはいかがでしょうか。オンラインで同僚と話す機会はあるものの、業務の話に終始し、雑談をする機会が減っていませんか?改めて意識することで発見できることがたくさんありそうですね。

ぜひ皆さんにもこの機会に「コレクティブ・ウェルビーイング」のガイドラインをご覧いただければと思います。

「楽天ピープル&カルチャー研究所」では、人や組織に関する研究結果や情報を随時発信していくとのことので、今後の活動にもぜひご注目ください。

もっと見る
Back to top button