楽天とOpenAIイベントレポート「生成AIの次に来るもの」
2024年4月16日(火)、対話型AIの「ChatGPT」などで知られる、米OpenAI社(以下、OpenAI)のCOOブラッド・ライトキャップ氏と、楽天のCAIDO (Chief AI & Data Officer)であるティン・ツァイによる「生成AIの次に来るもの」と題したトークイベントが実施されました。
OpenAIと楽天は、AI分野における戦略的パートナーシップを23年11月に参画し、企業向けのAIプラットフォーム「Rakuten AI for Business」の開発を発表しています。さらに一環として、通信業界向けのAIツールの開発への着手もしています。OpenAIと楽天は、最先端のAIソリューションの構築を目指して、共に手を携えてまい進してきたのです。
※イベントの模様は、こちらの映像でもご覧いただけます。また以下は抄訳となります。
本記事では、イベントの模様をダイジェスト版にてお届けします。AI技術が加速度的に進化している今、二人はどんな未来を描いているのでしょうか。
OpenAIのAI技術と楽天の豊富なデータで叶える、AIの真の価値
ティン: ブラッドさん、「楽天クリムゾンハウス(楽天本社)」へようこそお越しくださいました。さっそくですが、OpenAIにおけるブラッドさんの役割について教えてください。
ブラッド: 私の役割は、“OpenAIのミッションをパートナー企業と共有すること”です。OpenAIが、経験を通じて学習するAIモデルを用いてグローバルな事業拡大を目指すにあたって、様々なパートナーシップを築くことが不可欠です。設立した当初は従業員が少なく、一人ひとりが様々なことに対応する必要がありました。しかし、あれから組織が大きく成長してきたため、今の私は日々の業務執行の責任を請け負うCOOとして、パートナーシップ全般、プロダクトのリリース、ファイナンスなどにフォーカスしています。
また日本法人「OpenAI Japan」の開設について発表していますが、日本は製造技術の分野において、テクノロジーによってたくさんのイノベーションを起こしてきました。また毎週200万人規模の人々がChatGPTを利用していて、驚異的な使用率です。ですから、ユーザーをはじめとする日本の人たちと密接に関われるような場所で、多くを学びたいと考えています。また私たちのAI技術によって、日本市場にさらなるイノベーションを起こし、AIの真の価値を社会に提供できると考えたのです。この東京オフィスは、OpenAIにとって海外拠点の3カ所目であり、アジアでは初となります。
ティン: OpenAIは2015年の創業以来、世界を変えるイノベーションを次々と打ち出してきました。その躍進ぶりには目を見張るものがありますが、そのスピード感にはどんな秘密が隠されているのですか。
ブラッド: まずは、明確な優先順位があり、「私たちのミッションにとってプラスか否か」によって判断しています。そのミッションとは、「人間のように自発的・自律的に学習する知能である『汎用AI(AGI)』の恩恵を、あらゆる人に安全に届ける」ということです。
そして、私たちOpenAIは研究機関でもありながら、エンジニアリングの力を強く信じています。ですから、システムインフラをよく理解した上で研究開発を支えることによって、大規模かつ複雑なシステムでも、迅速にスケールアップすることができるのです。
ティン: 例えば「楽天市場」では、多くの店舗さんがいますが、店舗の皆さんは販売業務と並行して、多くの雑務に日々追われています。そうしたあらゆる業務をサポートするツールの開発が急がれるわけですが、AIモデルだけでは不十分ではないだろうかとも考えています。ブラッドさんはどう思われますか?
ブラッド: “最先端のAIモデル”を提供することによって、力は発揮できると思います。ただ、そのためには、人とAIを結びつける優れたインターフェイスや自らのタスクを翻訳し言語化できる能力が求められるでしょう。というのも、複雑なタスクをAIモデルに学習させるには、フィードバックによる改善を繰り返すことが必要不可欠だからです。それらと最先端のAIモデルがあれば、もっと複雑なタスクさえも処理できるようになるはずだと考えています。
「生成AIの次に来るもの」:タスクをこなす→問題解決に導く
ティン: ところで、御社が“汎用AIの普及と発展”を目標に掲げて事業を展開しているのはどうしてですか。
ブラッド: 様々な役割や課題を柔軟に処理でき汎用AIが、事前の知識なしに推論し、有益な解決方法を生み出せる世界を目指しているからです。その実現のためには、「特化型AI(ANI)」に具体的なコンテキストを理解させることによって、汎用AIが考える一部を肩代わりさせることが必要だと考えています。決められた役割の中で限定されたタスク処理を行う特化型AIと、様々なタスクを柔軟にこなすことができる汎用AIが、互いを補っていくことで最適な解を生み出すということです。
ティン: 弊社の三木谷は「イノベーションはコネクションを作ることで生まれる」とよく言っていますが、そうした部分領域のつながりによって、イノベーションが生み出されるということですね。では、ビジネスのイノベーションにおいて、次に来るテクノロジーは何だと考えていますか。
ブラッド: 指示されたタスクをこなすだけでなく、一緒に新しい知識やアイディアを生み出し、一緒に複雑な問題を解決していく“アシスタント”のようなものではないでしょうか。
ティン: もしそれが実現した時には、AIが生成した成果物のクオリティをいかに保証するかがとても重要になると思います。例えば今日、ある大学が発表したレポートについて、ChatGPTを使って要点を書き出してもらいました。ただ、私はレポートのすべてを読んでいないので、正誤の確認ができません。ですから私は、オリジナルのレポートと、要点をまとめたものを比較させて、その整合性をChatGPT自身に検証させてみたのです。
ブラッド: まさにそのように品質保証としてAIモデルを使うことも、有益な使い方の一例です。とはいえ、業務全体で見れば、そうしたタスクはわずかな割合でしかなく、人間が毎日こなしているワークフローはもっともっと複雑ですから、「タスクをこなす」だけではなく、「問題解決に導く」ためにどうすればいいのかを共に考えられるAIの実現に向かって私たちは突き進んでいます。
新たな世界の地平へ向かって、前人未到の旅路を突き進む
ティン: 一方、AI技術の発展に伴って、仕事への影響を心配する声も聞かれます。AIは人間の仕事を奪うのか、あるいは生産性や質を高めてくれる存在なのか——。経済学を専攻されていたブラッドさんとしては、こうした雇用への懸念についてどう見ていますか。
ブラッド: 確かに私たちの働き方や企業のあり方、プロダクトを作るプロセスなどはAIによって変化するでしょう。というのも、人間の生産性を上げるばかりでなく、それぞれの人間が持つ能力を変えることさえ可能だからです。例えば、プログラミングをよく知らない方々でも、今から大量のコードを書くことができる。つまり、AIが人間に与える成長余地の機会は莫大なんです。そして、経済学の目線からお答えすると「AIは“ツール”」でしかありません。人類はこの変化に適応できると思いますし、私は未来に関してはとても前向きに捉えています。
ティン: 私も同じ考えです。最先端のAI技術を応用することで、平等な競争を可能にすると思っています。とはいえ、AI技術を活用できなければ、競争についていくことができずに取り残されてしまう危険性も孕んでいますよね。ですから楽天としては、より多くのことを成し遂げるための、“最高のアシスタント”を持つことができるように環境を整備していきたいと思います。
ブラッド:楽天の皆さんと関われることをほんとうに嬉しく思っています。現在の生成AIにおける変化のスピードはあまりにも早すぎて“めまい”がするほどですが、この変化を理解することはとても重要だと考えています。多くの人と関わり合いを持ちながら、さらに多くの人々にテクノロジーの恩恵を届けるという志を胸に、夢を叶えていきたいですね。
ティン: これからの取り組みがほんとうに楽しみです。本日はありがとうございました。