(本記事は、2019年4月11日にNewsPicksにて掲載された記事の転載です)

「楽天モバイル」がMVNO、いわゆる格安SIMの業界に参入したのは2014年10月。すでに大手資本も参入を果たしていた時期に、後発組として名乗りをあげたにもかかわらず、2018年3月にはシェア1位となった。現在、2位以下を大きく引き離し、そのシェアは25%以上に達している。
圧倒的な強さを誇る「楽天モバイル」は、どのようにして今の地位を築き上げたのか。その過程を紐解くと、楽天独自の戦略や文化、そして「楽天モバイル」が持つポテンシャルが見えてきた。

楽天の方程式「差分+オリジナリティ=勝利」

「楽天モバイル」の最初の記者発表で、三木谷浩史社長が「大手キャリアの3分の1の価格でサービスを提供する」と発言したように、「楽天モバイル」が最初にフォーカスしたのは「価格」だった。

もちろん、安かろう悪かろうではユーザーに支持されない。負担額が3分の1であっても、快適につながり、品質の良い端末が選べて、接客でも不満を生まないサービスでなければ、大手キャリアの手厚いサービスに慣れたユーザーは取り込めない。

「楽天モバイル」立ち上げ当初から事業長として活躍する大尾嘉宏人氏は、次のように語る。

「楽天には『差分+オリジナリティ=勝利』という戦略の方程式があります。競争相手のほうが優れている部分、つまり差分があるなら、その差分を埋める。そして、さらにプラスアルファの、オリジナルなベネフィットやバリューを提供する。

それによって既存のサービスに打ち勝ち、多くのサービスを成功させてきたのが楽天グループであり、『楽天モバイル』も例外ではありません。圧倒的なシェアは、差分を埋め、オリジナリティを付加する作業を実直に続け、お客様視点を大事にしてきた結果です」

参入後、最初の2年間は「オリジナリティ」には手を出さず、MVNOと大手キャリアとの「差分」を埋めることに邁進した。

ただし、あらゆる部分で大手キャリアを後追いするだけでは、当然ながら3分の1という低価格は達成できない。

そこで、大手キャリアの顧客満足度の高い部分を提供すべく、参入1年目は携帯端末の種類を豊富に用意することに注力した。

選択できる端末の種類が極端に限られているMVNOも少なくないなか、「楽天モバイル」は参入当初から、数十種類の端末を用意している。

現在、「楽天モバイル」で選択できる機種は30種類以上。ハイクオリティなものから、コスト重視のものまでラインアップ豊富に揃えている。

「ラインアップを拡充することで、お客様はショッピングを楽しむこともできる。携帯電話であれ洋服であれ、選択の幅があるのは嬉しいことですよね」(大尾嘉氏)

そして2年目、サービスの差分に着手する。

たとえば2016年に開始した「5分かけ放題(※現在は10分かけ放題にグレードアップ)」や、データの大容量プラン、家族間などでデータ容量を分け合えるデータシェアなど、大手キャリアでは一般的だが、MVNOでは導入事例の少ないサービスを続々と開始した。

2017年には、主力プランの「スーパーホーダイ」を開始。

さらに、もうひとつ、「楽天モバイル」は大きな勝負に出た。それはリアル店舗の出店だ。

「『楽天モバイル』がサービス提供を開始した当時、MVNOはオンライン申し込みが中心でリアル店舗を構えるのは珍しいことでした。そんな中、『楽天モバイル』は渋谷や銀座などに積極的にリアル店舗を展開しました。

すると、開店前から長蛇の列ができ、オンライン申し込みに慣れていないお客様も数多く来店されるようになりました。

こういった状況を見て、お客様にとって、携帯電話の契約は大事なインフラに関わること。対面で話してしっかり納得して契約したいというお客様にも、安心して検討していただけるサービスにしたいと強く思うようになりました」(大尾嘉氏)

銀座店はオープン前から長蛇の列ができた

MVNOの常識を覆し、「格安料金であっても、リアル店舗が存在して、きちんとサポートを受けながら契約ができる」という新しいMVNO像を作り上げる。その挑戦は、「楽天モバイル」にとって避けられないものとなった。

リアル店舗を成功させた「原価低減主義」と「現地現物主義」

什器は標準化したものを一つの工場から送り出す。端末配送のサプライチェーンを徹底的に見直す。坪数を決めて、一定以上の広さでは出店しない。

そんなコストカットの常道に加え、1時間ごと、販売店ごとの販売実績の管理を行うなど、リアル店舗では徹底した生産性管理を行った。

しかし、それだけで、この4月には500店舗に迫らんとする攻勢は実現できなかっただろう。

楽天グループは「原価低減主義」という考え方に重きを置いている。

「かかったコストをマークアップして、価格を決定するのが『原価主義』です。私たちは逆の発想で、お客様が決めた値段に対してどこまでオペレーションを効率化し、コストを抑えられるかに挑戦する。それが『原価低減主義』です」(大尾嘉氏)

リアル店舗を担う代理店だけでなく、携帯端末を供給するメーカー、オペレーションを担う物流も巻き込んで、大尾嘉氏は原価低減主義の浸透を図った。

大尾嘉氏は浸透がうまく進んだ要因を2つ挙げる。

一つはミッションの共有。ベンチャー企業のように小さな組織からのサービススタートだったが、「こんなすごいバリューをお客様に提供しよう」という思いの強さでパートナーとも結束し、ときに大企業を上回る成果が上げられたという。

そしてもう一つが将来像の共有だ。「これをやって」と言われるだけでは、人は能動的には動かない。一方で、「1年後こうありたいから、そのために頑張りましょう」と、望ましい未来を示すことができれば、そこに到達するための方法を皆が考えはじめる。

パートナーに対しても、将来像やそこに向けた生産性改善策などを共有してもらい、お互いにあらゆるものを可視化し合うことで、運命共同体のような関係を築き上げていったという。

「それを乗り越えるのが『現地現物主義』です。ITからはじまった楽天としては、少し意外かもしれませんが、現場に足を運ぶ文化が根付いています」(大尾嘉氏)

物流システムのチェックのために実際に工場に視察に行く。また、コールセンターの対応もユーザーとのやり取りの内容を直接確認し、気になる点があればその日のうちに改善する。

お客様満足度向上につながる改善に、労力を惜しまないことが「楽天らしさ」なのだ。

日本の通信費に風穴を開ける

MVNOのマーケットは成長し続けているが、近年は鈍化している。

「大手キャリアがサブブランドを創設したり、値引き施策を打ち出すなどした影響もあります。

その意味では、『楽天モバイル』の躍進が、日本の通信費低減に一役買っているという自負はあります。我々の存在で、今までの携帯料金の高さに気付いた方も多いのではないでしょうか」(大尾嘉氏)

たしかに、世界水準から見ても日本の通信費は高止まりしている。そこに「3分の1」を掲げた「楽天モバイル」は、通信費に風穴を開けつつあると言える。

大尾嘉氏は「料金プランをシンプルにすることでお客様が自分で考えて選択しやすくなる。選択の自由はお客様に委ねるべきです」と話す。

2017年にはじまったスーパーホーダイは、ユーザーの声をもとに作られたシンプルなプランだ。

日本の携帯ユーザーはデータ容量を使い切った後の低速に不満を感じることが多いが、スーパーホーダイならデータ容量を使い切った後も標準画質で動画を楽しめる1Mbpsの速度で使い続けられ、10分かけ放題も付いている。

シンプルかつわかりやすい料金体系にすることで、店舗スタッフもご案内しやすくなり、ユーザーも理解しやすくなる。その結果、現在契約者の8割近くがスーパーホーダイを選択しているという。

「私たちは、『生活者に根差したサービスを多数展開する楽天グループが提供すべきMVNOサービスとは』という自問自答を繰り返しています。楽天グループには『楽天市場』や『楽天トラベル』などのインターネットサービスがあり、ポイントがあり、フィンテックがある。

その点で、通信キャリアとは最初から立ち位置が異なりますし、『楽天スーパーポイント』に代表される楽天エコシステム(経済圏)を活用していくことが、お客様の利便性向上、そして『楽天モバイル』のさらなるシェア拡大につながります」(大尾嘉氏)

楽天グループ全体で見てみると、「楽天モバイル」と「楽天市場」など、「楽天スーパーポイント」を活用したサービス間のコラボレーションが多く存在し、「楽天モバイル」契約者の約9割は、複数の楽天サービスを利用している。

「楽天モバイル」は、「楽天市場」のポイント倍率が上がるSPU(=スーパーポイントアッププログラム)の対象サービスのひとつとなっていて、その倍率は「楽天カード」と同様にプラス2倍。

「楽天モバイル」を利用するとポイントが貯まるだけでなく、実際に貯まったポイントを月々の携帯料金に充てることも可能で、実質利用料金がタダになっているユーザーも多いという。

そして2019年、「楽天モバイル」は、自前の通信網を持つ「第4の通信キャリア」として、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクと同じ土俵での戦いも展開しはじめる。

「日本の携帯利用者は、高い料金に慣れているだけではなく、『キャリアに高い料金を払っているのだから、手厚いサービスを受けて当たり前』という状況にも慣れているんです。でもその“当たり前”をどうにかして変えなければいけないと私たちは考えます」(大尾嘉氏)

現状、「楽天モバイル」は、リアル店舗だけでなく、メッセンジャーなどを活用した効率的なオンラインのカスタマーサービスも含めて、高い顧客満足度を誇る。

「楽天モバイル」がMVNOで蓄えた知見をもとに、日本の携帯サービス事情を大きく変える。そんな未来がもうすぐそこまで迫っている。

制作:NewsPicks Brand Design

(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:國弘朋佳)