【Rakuten AIの裏側】グアンダ・リーが語る生成AIによる顧客体験の変革

※本記事は、以下の「Rakuten.Today(英語版)」で掲載された記事を抄訳したものです。
https://rakuten.today/blog/inside-rakuten-ai-guangda-li-on-reinventing-customer-experiences-with-genai.html

本シリーズでは、楽天のAI開発に携わる責任者や、「AIの民主化」を目指す楽天のビジョンを推進するキーパーソンに話を聞き、AIという革新的なテクノロジーにまつわる様々なトピックについて深く語っていただきます。楽天のYouTubeチャンネルで「Rakuten AIの裏側シリーズ」として本記事を含むインタビュー動画を公開していますので、ぜひご視聴ください。

生成AIは私たちの買い物や旅行の仕方はもちろん、暮らしそのものに大きな変革をもたらします。顧客一人ひとりのニーズや好みに合わせた体験を提供すると同時に、オンライン販売業者の成長を支援しています。2025年、米国の顧客管理システム大手Salesforceは、2024年クリスマスシーズンの世界のオンライン売上高のうち、19%にあたる2,290億ドルにAIとAIエージェントが影響を与えており、この割合は前年から6%増加したと発表しました。商品のおすすめやターゲットを絞ったオファー、対話型のカスタマーサポートまで、AIを活用した機能によってデジタル市場のあり方が変わりつつあります。

AIを活用した顧客体験の実現という楽天の目標を主導するのは、Rakuten AsiaのAI & DataディビジョンでAIラボのジェネラルマネージャーを務めるGuangda Li(グアンダ・リー)です。「Rakuten AI Assistant」の開発の中心を担うほか、多様な「楽天エコシステム(経済圏)」を通じて、AIが、信頼できる相談役としてだけでなく、有能なガイドとして機能する新たな可能性を模索しています。

収益性のある成長へのビジョン: 検索からAIへ

Rakuten AsiaのAI & DataディビジョンでAIラボのジェネラルマネージャーを務めるグアンダ・リーは、AIを活用した顧客体験の実現という楽天の目標を主導する。

経験豊富な技術者で起業家でもあるリーは、10年にわたってさまざまな新興の技術を収益性のあるプロダクトに育ててきました。スタートアップ企業時代には、コンピュータビジョンからディープラーニング(深層学習)まで、あらゆるテクノロジーに携わりました。「以前、ビジュアルサーチ技術を開発してエンタープライズユーザー向けに販売していたことがあります。最近のEコマースアプリでは、検索バーにカメラのアイコンが付いていますよね。この機能を使って製品の写真を撮ると、その製品や似たような商品を探してくれます。これがビジュアルサーチの機能です。自分が関わっていたテクノロジーが広く普及し、今では多くの企業で売上向上に役立っています」

「『楽天エコシステム』からは膨大なデータやイベントが得られます。そういう技術を開発できる企業はたくさんありますが、多様なサービスとデータがシームレスに統合されている点が、楽天が他社と一線を画しているところです」

グアンダ・リー Rakuten Asia AI & Dataディビジョン、AIラボ ジェネラルマネージャー

リーは2023年、企業理念と多様なサービスのエコシステムに魅力を感じて楽天に入社しました。当初はキーワード検索を主に担当しましたが、「もっと直感的な顧客体験ソリューションを実現したい」という強い思いが、大きな構想に発展しました。もし、ユーザーが楽天の全サービスに簡単にアクセスでき、最も欲しい情報を得られる一元化された入口があったらどうだろう?その答えは、AIを活用したチャット機能にありました。

「最初のデモは、探したいサービスや商品の種類を自動的に判定するアルゴリズムを使用したシンプルな検索インターフェースでした。そこから、ユーザーがフリーテキストや画像、音声コマンドまで入力できるようにするなど、より柔軟なやりとりができる方法をいろいろと探り始めました」とリーは振り返ります。「そのとき、これはダイナミックな対話型インターフェースに進化していく可能性があることに気づいたのです。ChatGPTに似ていますが、楽天のエコシステムに特化したインターフェースです。更新したデモ版を楽天の関係者に見せたところ、非常に前向きな反応をもらい、このコンセプトを進めることに確信を持てました」

収益化を推進するAI活用サービスの構築

「Rakuten AI Assistant」のマルチエージェントフレームワーク

リーのチームは、実用的な「連合アプローチ」で「Rakuten AI Assistant」の開発を開始しました。社内外の技術を融合し、可能な限りベストなユーザー体験を提供する質の高いプロダクトを実現しました。このアシスタントは以下の3つのコア技術によって動作しており、使いやすさの向上だけでなく収益化にもつながっています。

  1. 大規模言語モデル(LLM): ユーザーの質問を理解し、それを実行可能なクエリに変換した上で、楽天の各種検索エンジンと連携して関連する商品や情報を提供します。ユーザーが本当に必要なものを見つけられるようにすることは、ユーザーの満足度と定着率を高め、リピート購入につなげるために非常に重要です。
  1. セマンティック検索: この技術は、ユーザーの質問の深い意味を理解し、より直感的で文脈を意識したやりとりを可能にすることで、検索体験を向上させます。「Rakuten AI Assistant」のユニバーサルなコンシェルジュ機能の基盤となる技術であり、楽天社内で同機能が開発されました。ユーザーの質問の裏にある意図を理解することで、最適な検索結果を提供し、ユーザーがより多くの商品やサービスを探索するよう促します。
  1. ユーザーのニーズに合わせたおすすめフィード: 楽天のレコメンデーションチームが開発した機能です。視覚的に楽しめる形で商品やサービスの提案を無限スクロール形式で提供します。ニーズや好みに合った「おすすめ」を次々と表示することでユーザーを引きつけながら、クロスセリング(関連商品を併せて販売すること)やアップセリング(より高価格帯の商品を提案すること)の機会を創出します。

以上の3つの技術が一体となってシームレスで直感的な体験を創り出し、ユーザーに繰り返しサイトを訪れるように促しています。こうしたリピート利用の増加は、楽天の1ユーザー当たりの平均売上(ARPU)上昇に不可欠な要素です。

楽天の優位性を活用した独自のアシスタントの開発

「Rakuten AI Assistant」はユーザー一人ひとりのニーズや好みに合わせたチャット、検索、おすすめ機能を提供し、ユーザー体験を向上させている。

現在ではさまざまなAIチャットアシスタントが次々と登場していますが、その中で、「Rakuten AI Assistant」はどのように差別化を図っているのでしょうか? ポイントはこのサービスの独自の基盤にあるとリーは言います。「『楽天エコシステム』は幅広い業種に広がっていて、そこから膨大なユーザーデータやイベントが得られます。その豊富なデータにより、私たちは継続的に技術を改良していくことが可能です。技術開発は誰でもできますが、データと多様なサービス群がシームレスに統合されている点が、楽天が他社と一線を画しているところです」

「LLMは一般的な知識を扱うにはぴったりですが、最新の情報やニッチな専門知識には欠けています。私たちはRAGを利用して正確なリアルタイムのデータを引き出し、データの裏付けのある正確な回答を提示することで、ユーザーに探索を続けるように促しています」

「Rakuten AI Assistant」は、「楽天市場」のEコマースから「楽天ラクマ」のショッピングまで、日常生活で必要になるほぼすべてのサービスにユーザーを結び付けます。リーはこのアシスタントを、先進テクノロジーを「楽天エコシステム」と統合してユーザー一人ひとりのニーズや好みに合わせた包括的な体験を提供する「真のコンパニオン」と位置付けています。

例えばマラソン用のシューズを探しているユーザーには、「Rakuten AI Assistant」がクッション性やカーボンプレートの有無、価格帯を考慮しておすすめ商品を提示し、ユーザーがリサーチにかける時間を短縮しながら、納得のいく購入ができる確率を高めることができます。リー自身も北海道旅行を計画するのにこのAIアシスタントを利用し、宿泊先の提案から旅のお役立ち情報、関連のおすすめ商品の情報まで、すべて1カ所で入手できたと言います。この利便性の良さは、ユーザーが生活のさまざまな場面で楽天を頼りにし、いろいろなサービスの積極的な利用を促すことにつながっています。

「習慣化を促す」定着性の高いAIプロダクトによる信頼構築

強力なAIアシスタントを開発することは、達成すべきことの半分に過ぎません。リーのチームでは、このアシスタントの信頼性を高め、習慣的に利用してもらえるツールにすることにも力を入れています。「Rakuten AI Assistant」が定着率の高いプロダクトになれば、継続的な収益増加を期待できます。

「さらに他の楽天のサービスも統合し、AIネイティブなユーザー体験を目指す方法を探っています」

「LLMは一般的な知識を扱うにはぴったりですが、最新の情報やニッチな専門知識には欠けています」とリーは指摘します。「そのため、私たちは検索拡張生成(RAG)を利用し、社内外の情報源から正確なリアルタイムのデータを引き出しています。ユーザーが、データの裏付けのある正確な回答を得られれば、さらに追加の質問をし、探索を続ける可能性が高くなります」

「スーパーパーソナライゼーション」という考え方にもリーは注目しています。「現在のAIアシスタントの多くはその場のやりとりにフォーカスした短期記憶を備えていますが、私たちは楽天のアシスタント向けの長期記憶を開発中です。「Rakuten AI Assistant」は個々のユーザーを認識し、その購入履歴や行動、やりとりをすべて把握して、その人特有の嗜好に基づいて次のニーズを予測できなければなりません。あなただけのための魔法のランプの精がそばにいて、いつも必要なものをすぐに届けてくれる。そういうレベルのスーパーパーソナライゼーションが、AIアシスタントサービスの究極の理想だと考えています」

AIネイティブ体験の未来

リーが究極的に目指すのは、「Rakuten AI Assistant」をなくてはならないAIネイティブな体験にすることだ。

リーが究極的に目指すのは、「Rakuten AI Assistant」をなくてはならないAIネイティブな体験にすることです。楽天IDを元にユーザーを認識することで、ユーザーを「楽天エコシステム」にシームレスにつなぎ、最適なおすすめアイテムをタイムリーに提示することができます。

「私たちはさらに他の楽天のサービスもシステム的に統合し、AIネイティブなユーザー体験を目指す方法を探っています」とリーは言います。「スマホを開くと有能なアシスタントがそこにいることを想像してみてください。商品のおすすめ、旅行のヒント、サービスの更新情報など、あなたに今必要なものがはっきりとわかっているアシスタントです。無理強いをしたり、機械的な感じがあったりするのではなく、親しみやすい自然なやりとりができるのが理想です」

将来に向けては、革新的な技術と高度なパーソナライゼーション、シームレスな統合を融合させた独自性を活かし、ユーザーのAIとの、そして楽天のサービス全体との関わり方に大きな変革をもたらし、価値を生み出すサービスとして「Rakuten AI Assistant」の地位を確立したい、とリーは意気込んでいます。

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