すべての人に最強のAIを:「Rakuten AI Optimism」三木谷オープニングキーノート

楽天グループ最大級の体験イベント「Rakuten Optimism(楽天オプティミズム)」が、第6回開催を迎えた今年は、AIに焦点をあてたビジネスイベント「Rakuten AI Optimism」へと進化。2025年7月30日(水)から8月1日(金)まで3日間の会期中、会場となったパシフィコ横浜には約2万3千人(累計来場者数)を超えるお客様にお越しいただき(オンラインを含めると3万3千人を超える方々が「Rakuten AI Optimism」を体験)、大きな盛り上がりをみせました。
今年のコンセプトは「Empowering the Future」。日本の未来に素晴らしい変革を起こす(=Empowering the Future)イベントとして、「ビジネスカンファレンス」と「エキシビジョン」を展開しました。
初日の基調講演では、三木谷浩史が登壇し、AIの可能性と楽天の取り組みについて語りました。
本記事では、基調講演の内容をダイジェスト版でお届けします。
「楽天モバイル」の参入でブロードバンドは無制限の時代に

今、AIが世の中を根本的に変えようとしています。楽天グループは、(1997年の創業から)約30年の間に様々なチャレンジをし、現在も挑戦を続けています。大きく変わる社会を皆さんと一緒に乗り越えるだけでなく、AIをうまく使って成長していきたいと考えています。
まずは楽天グループの歴史から振り返りたいと思います。元々、日本興業銀行(現 株式会社みずほ銀行)の銀行員だった私が1995年に当時の言葉で脱サラ(退職)し、インターネットが世の中を変えていくんだと信じ、皆さんのお役に立ちたいという思いで、1997年に「楽天市場」をスタートいたしました。その時のインターネットのスピードは大体14.4kbps。メガ(Mbps)でもギガ(Gbps)でもない、現在のいわゆる高速インターネットの約10万分の1ぐらいの時に、「楽天市場」は生まれたわけです。私はその時、「(今後)無線であらゆる通信が可能になり、世の中の情報はすべてつながって世の中が根本から変わっていく。そんな中で特に地方の企業をはじめとした中小企業を助けたい」という思いを抱き、当時の若者たちと全く新しいプラットフォームを作り、サービスを開始しました。この時のチャレンジ精神は今も変わりません。
そこから「楽天トラベル」や、世界でもいち早くインターネット上の大規模なポイントシステムの構築、証券、スポーツ分野においても、当時存続さえ危ういとされていたプロ野球への参入、そして銀行への参入、社内公用語の英語化、最近は携帯キャリアへの参入まで、世の中の常識を逆手にとって、様々なプロジェクトにチャレンジをしてきました。結果的に、世界に類を見ない「楽天エコシステム(経済圏)」やプラットフォームを皆さんと一緒に作ってこれたと思っています。
日本国内を守っているだけでは、技術の進歩も、新しいビジネスの発想も出てきません。楽天グループは、グローバルなビジネスの挑戦をしています。楽天にとってアメリカ最大規模の会員サービスである「Rakuten Rewards」、携帯の先進的なソフトウェア技術を生かした通信プラットフォーム事業である「楽天シンフォニー」、世界最大規模のメッセージングアプリのひとつである「Rakuten Viber」、日本だけでなくヨーロッパでもサービスを展開するビデオストリーミング「Rakuten TV」、また世界第2位の電子書籍サービス「Rakuten Kobo」など、世界で色々なチャレンジをしています。
今や日本人のほぼすべての人が楽天IDを持っていて、世界で見れば楽天のグループサービス全体で約20億人の利用者数がいる。「楽天カード」で決済したり、「楽天市場」でショッピングをしたり、「楽天トラベル」を利用して旅行をしたりと、月間アクティブユーザー数として約4,400万人の方に楽天グループのサービスをご利用いただいています。楽天グループのサービスは70以上あり、多くの方が2つ以上のサービスをご利用いただいております。

「楽天モバイル」は7月7日(月)時点でご契約数が900万回線を突破(注1)して、年内には1,000万回線を目指しています。今日のメインのテーマはAIですけれど、AIはやっぱり通信とつながっていないと使えない。いわば「デジタルの道路」といえる通信の料金は安い方がいいということで、「Rakuten最強プラン」を始めました。(10月から「Rakuten最強U-NEXT」をご契約すると)ギガ無制限でコンテンツも見放題となる(注2)といったサービスを提供するなど様々なチャレンジを行ってまいりました。
「楽天モバイル」の登場によって日本の国民のインターネット、モバイルの使い方が大きく変化していると考えています。ご契約者様の1カ月あたりの平均データ利用量は増加傾向にあり、もうすぐ32GBに近づいています。若年層のお客様には月々約70〜80GBほどご利用されている方もいます。楽天がモバイル事業に参入したことによって、常にブロードバンドで様々なサービスを利用できる環境になり、日本全国津々浦々、あるいは海外に行った時も使える(注3)無制限の時代に変わってきていると思います。
さらに「楽天モバイル」では、スマホをいつでもどこでもご契約できる世界の実現も目指しております。私も先ほど体験してきましたが、今回の「Rakuten AI Optimism」の「楽天モバイル」展示ブースでは、AIアバターによる接客や、AIを通じてあたかも人間のスタッフとのように会話しながらeSIMや物理的なSIMカードの発行ができる、未来のモバイル契約を紹介しています。
このAI時代、携帯料金が高かったらダメだと思います。AIが世の中を変えていく時代には、できるだけ安くて、速くて、そしてつながるということが重要であると思っています。「楽天モバイル」では、 ネットワークの運用にもAIを活用しています。今年は、AIにより無線アクセスネットワーク(RAN)を管理・制御するRAN Intelligent Controller(RIC)を活用し、消費電力削減を従来比で20%ほど抑えることを目指しています。
(注1)900万回線は、7月7日(月)時点の、BCP(Business Continuity Plan用途に販売しているプラン)回線を含む、「Rakuten最強プラン」、「Rakuten最強プラン ビジネス」、「Rakuten Turbo」、MVNOおよびMVNEを合わせた契約数です。
(注2)混雑時など公平にサービス提供のため通信速度制御を行うことあり。別途有料作品等あり
(注3)「Rakuten最強プラン」は、90以上の国都地域で毎月2GBまで無料。プランのデータ利用量に加算。通話料等別。2GB超過後は最大128kbps
※U-NEXT、U-NEXTロゴは、株式会社U-NEXTの商標または登録商標です
回答からアクションへ。AIはエージェントへ進化

楽天グループが目指しているのは、「最強のAI」です。2000年代中盤ぐらいにディープラーニングという分野から生成AIが出てきて、ここ数年間でAIは劇的なスピードで進化しています。AIの世界では、3年で起こると思っていたものが、3カ月で起こってしまうぐらい、凄まじい学習のスピードアップが起きています。
聞いたことに答える従来のAIが、そのスーパー版になり単純な回答からアクション(まで行えるように)に変わってきました。それがAIエージェントです。エージェントは代理人という意味で、私の言葉でいうと「スーパー秘書」。私には人間の「スーパー秘書」がいるんですけど、その「スーパー秘書」がデジタルでも対応可能になろうとしています。つまり、ユーザーの指示に基づいて何かを答えるデジタルから、ユーザーの意図を理解して、きっとこんな内容なんだろうな、趣味なんだろうなと咀嚼して、その上で実際に取引を実行するのです。この、実行するというのが重要です。
例えば自動運転。現在、東京では晴海地区など一部地域でバスの自動運転が開始しています。それから、ホテルのコンシェルジュ、ショップの店員さん、弁護士さん、会計士さんとか、こういう人たちが皆さんの代理人としての働きをしてきました。それらがすべて、AIである程度対応できるようになるところが、もうそこまで来てると思っています。
AIの普及スピードですが、今年の6月末時点で、世界では約12億人を超える人々がAIを利用しています。これはインターネットが普及したスピードやスマホが普及したスピードに比べると、圧倒的なスピードで発展しています。ChatGPTの出現後、次から次に新しいAIが出てきて、ほぼすべての人が何らかの形で意識しないでもコンスタントにAIを使っている時代が来るということです。今後は、AIを使い倒すことこそが国の力の大きな差別化になっていくのではないかと思っています。

残念ながら、日本はかなり遅れています。アメリカを100とすると、日本の「AI力」は20というのが現状です。そのような中で、楽天グループが皆さんをいかにAIでエンパワーメントしていくかというのは極めて重要な役割の1つだと思っています。特に日本では、中高年層である50〜60代のうちまだ20%くらいしか生成AIサービスを利用していないそうです。楽天は、意識しないでも皆さんがAIを使えるようになることを目指しています。ユーザーとしてもそうですし、クライアントの皆さんがビジネスの運営でAIを活用できているようにしていかなければならないと思っています。
AI+ヒューマン。最強のAIプラットフォームを目指す
「すべての人に最強のAIを」という考えから、このたび楽天は、「Rakuten AI」のブランドコンセプトとデザインを一新しました。基本的なコンセプトは、新しい融合を作っていく、新しい創造をしていく、そして皆さんと一緒に協働していくということで、元々のシンプルなデザインを新しくしました。さらに、既存のビジネス向けや個人向けのAIサービスの名称としても使用します。

これからの世界、AIにおいて一番重要なのは計算方法や手順といったアルゴリズムだけではなく、データだと思っています。データは金脈であると思っています。
楽天グループのサービスは、「楽天市場」などの購買データだけではなく「楽天トラベル」の観光・宿泊データ、「楽天カード」、「楽天銀行」、「楽天証券」といった金融データ、そして「楽天モバイル」が加わったことによって様々なデータを複合的に持っています。データの取り扱いには気をつけなければいけないですが、これとAIを使ってどういうサービスを作っていこうかなと思っています。
ただ、これをうまく使っていくために、1社と協力するのではなく、OpenAI、Anthropic、Microsoft、LangChain、LlamaIndexといった外部の企業と提携をし、「Rakuten AI」を組み合わせながら作り上げていっております。

それに加えて、我々独自の大規模言語モデル(LLM)を作っています。日本語ってちょっと特殊なんですよね。英語は1アルファベット1バイトのところが、日本語の一文字は2バイトほどだったり、カタカナと平仮名を組み合わせていたり、単語と単語の間にスペースがなかったりなど、いわゆる表意文字と表音文字を組み合わせています。そういう特殊性も勘案しながら、日本語で最高レベルのAIを作っています。現在、スマホの中でも動かすことができるような小規模な言語モデルである「Rakuten AI 2.0 mini」の開発にも取り組んでおり、これによって利用シーンがさらに広がってくると思っています。
楽天グループは、様々なサービスを提供しており、このすべてと連携して皆さんの「スーパー秘書」である「Rakuten AI」が解決をし(質問やリクエストに応え)、取引してもらえる形にしていこうと思っておりまして、今日はこの場で、「Rakuten AI」という「最強のAIエージェント」を発表させていただきました。

本日7月30日(水)より、「Rakuten Link」という楽天モバイルご契約者様専用のコミュニケーションアプリケーションが「Rakuten AI」を搭載し、大幅にバージョンアップされます。これによって、テキストや音声、画像検索により「楽天市場」、「楽天ラクマ」、「楽天ブックス」、「Rakuten Fashion」といったショッピングのレコメンデーションをしてくれます。さらに今後は、金融、旅行、エンタメといった「楽天エコシステム」の様々なサービスを横断して、「Rakuten AI」が皆さんのエージェントとして働いてくれるようになります。
皆さんも普段「これいいな」って思った商品の写真を撮ると思うんですけど、「Rakuten AI」はそれに似たような商品を提案してくれます。画像検索したり、音声で「万年筆を予算2万円以下で探してください」と聞いてみたりすると、どういうものがあるか出してくれます。
今までであれば、各サービスの検索ボタンから検索をしていたわけですけど、それもエージェントがやってくれることになります。このエージェントというコンセプトは、今までのインターネットの使い方の概念を根本的に変えていきます。私に対しては、デジタルツインの「三木谷2号」が、色々と対応してくれるのです。デジタルの世界で「スーパー秘書」が、どんどん賢くなっていく。賢くなっていくだけじゃなくて、皆さんのことをよく理解している。
また、「楽天市場」の例で説明しますと、検索1つにしても、今までは言葉に紐づいた検索結果でした。これが今度はユーザーによる過去の購入履歴やプロファイルから提案してくれる。あるいは「そろそろサプリメントが必要ですね、買っておきましょうか」と「スーパー秘書」が聞いてくれる。
ただ、最終的にはやっぱり人だと思います。AI+ヒューマン。人間的なサービスが重要になってくると思います。本日会場に来られている「楽天市場」の店舗様や「楽天トラベル」の宿泊施設様が培ってきたライブな感覚こそが、非常に重要になってくると思っています。あくまでもAIはツールであり、それが「楽天市場」や、「楽天トラベル」などの楽天サービスの強さなのかなと思います。
例えば高級ハンドバックに置き換えて考えますと、全部ロボットで機械生産されたバッグと、職人さんの手製のバッグは、ブランド価値が変わってくると思います。人と人とのつながりを効率的にしていくのがAIであって、皆さん一人ひとりのサービスや商品に対するこだわりが集合となって、それにAIを掛け合わせると、世界でも最も類を見ないような人間味あるAI、「最強のAI」が完成できると思っています。
AIを使いこなす、使い倒すことが皆さんにとって重要であって、楽天はそれに向けて「最強のAIプラットフォーム」を作っていきます。
