楽天、Claude Codeで開発を加速

※本記事は、以下の「Rakuten.Today(英語版)」で掲載された記事を抄訳したものです。
https://rakuten.today/blog/rakuten-accelerates-development-with-claude-code.html
楽天は、Anthropic社のAIコーディングエージェント「Claude Code」を活用し、ソフトウェア開発の効率化を実現しています。テック部門は、コーディング作業の自動化によって開発期間を大幅に短縮し、数千万の顧客に対して安定したAI機能を提供しています。
Claude Codeによる主な成果
- 複雑なオープンソースのリファクタリングプロジェクトにおいて、7時間にわたる自律的なコーディングを実現
- 新機能の市場投入までの期間を79%短縮(従来の24営業日 から 5営業日へ)
- 複雑なコード修正において、99.9%の精度を達成
全チームに高速なイノベーションを可能に
楽天グループは、国内外において、Eコマース、トラベル、フィンテック(金融)、デジタルコンテンツ、モバイル、プロスポーツといった多岐にわたる分野で70以上のサービスを展開しており、AI(人工知能)を活用した顧客やビジネスパートナー、従業員に向けたサービス向上に取り組んでいます。
楽天でビジネス向けAI部門のジェネラルマネージャーを務める梶佑輔はこう語ります。「私たちは、すべてのチームに対して、迅速なイノベーションと、お客様へ大きなインパクトを届ける力を与えたいと考えています。既存業務の自動化だけではなく、各チームの可能性を最大限に引き出すことが重要です」
数千人規模の開発者が数百万人のお客様にサービスを提供する楽天にとって、AIを市場投入するまでのスピードを高めつつ、高い品質とセキュリティ基準の維持を両立することは大きな課題でした。
「スピードとROI(投資対効果)が私たちの主要指標です。AIがどれだけ早くコードを書けるかではなく、どれだけ早くお客様に価値を届けられるかを重視しています」
楽天は、AI化を意味する造語「AI-nization」(エーアイナイゼーション)をテーマに掲げ、さらなる成長に向けて、ビジネスのあらゆる面でAI活用を推進しています。自社でAIエージェントや大規模言語モデル(LLM)をゼロから構築することによる技術的基盤と、従業員に最先端のツールを提供するという姿勢が、AIを活用したソフトウェア開発の限界に挑戦する原動力となっています。
Claude Codeを選んだ理由
楽天では、既存のAIコーディングツールを評価した結果、多くのツールが人間による継続的な指示を必要とし、複雑かつ多言語にわたる大規模なコードベースの運用には対応できないという共通の課題がありました。Anthropic社の「Claude Code」はその課題を解決し、エンタープライズレベルで自律的な開発を実現するソリューションとして高く評価されています。
「Claude Code」の導入により、楽天の開発能力は飛躍的に向上しています。「『Claude Code』に4つのタスクを任せ、自分は残りの1つに集中することで、5つの業務を並行して進めることが可能です」と梶さんは語ります。
ビジネス向けAI部門の機械学習エンジニアである成瀬健太は、「Claude Code」の能力を試すため、1250万行のコードを含む複数のプログラミング限度で構成された仮想大規模言語モデル(vLLM)に特定のアクティベーションベクトル抽出方法を実装するという高度な課題を与えました。「Claude Code」は7時間で自律的に作業を完了し、従来の手法と比較して、99.9%の数値精度を達成しました。
「7時間の間、私は一切コードを書きませんでした。少し指示をしただけでした」と振り返ります。この結果、「Claude Code」の高い技術力が証明されました。
Anthropic社による「責任あるAI」への姿勢が、楽天の価値観と合致したことで、「Claude Code」の導入を後押ししました。
開発プロセス全体の変革
楽天は既存のプロセスにAIを後付けするのではなく、「Claude Code」の能力を最大限に生かすための開発ワークフローを再構築しました。
エンジニアは、ユニットテストの作成、APIのモック化、コンポーネント構築、バグ修正、ドキュメント生成など、開発ライフサイクルのあらゆる場面で「Claude Code」を活用しています。また、新規メンバーでも、「Claude Code」によって複雑なコードやアーキテクチャーを迅速に理解することができ、即戦力として活躍できる体制が整っています。
この新しいワークフローにより、楽天全体とお客様の双方に大きなメリットをもたらしています。AIの活用により、従来は数週間かかっていた機能開発を、数日で完了できるようになりました。
- AIによるコードレビュー:プルリクエストに対して即時フィードバックを提供し、コードの品質と開発スピードを向上
- 並列開発:複数の「Claude Code」セッションを同時に実行することで、ボトルネックを解消して新機能追加までの期間を短縮
シニア機械学習エンジニアのディエゴ・マテオスはこう語ります。「以前はテスト駆動開発(TDD)を自然に実施できずにいましたが、『Claude Code』なら包括的なテストを即座に生成し、それに合格する機能を自動で構築してくれます。開発スタイルが大きく変わり、生産性も飛躍的に向上しました」
ビジネスへの明確なインパクト
「Claude Code」の導入により、楽天の各事業部の従業員に大きな変化が生まれています。開発部門では、新機能の提供までに要する期間が平均24営業日から5営業日へと短縮され、79%の効率化を実現。これにより、イノベーションの推進体制が大きく進化しています。
AI Empowermentセクションのマネージャーであるマノジ・デサイは次のように語ります。「『Claude Code』によって、私たちはまるで“超能力”を手に入れたかのように、実行スピードを飛躍的に高めることができました」
また、7時間にもおよぶ自律的コーディングの成功は社内でも話題となりました。成瀬さんは次のように述べています。「社内の様々なチームから問い合わせが殺到しました。人間の介入は最小限だったことを説明すると、皆さんが驚いて、ソフトウェア開発のあり方が変わることを実感していました」
「Claude Code」はスピードだけでなく、開発の“民主化”も実現しています。
梶さん「エンジニア以外の従業員にも『Claude Code』を使ってもらいました。ターミナル型のインターフェースを活用すれば、非技術職でもコードを直接編集することなく開発プロジェクトに貢献できます。『Claude Code』が安全なガードレールとして機能するのです」
「Claude Code」の利用者拡大は、楽天社内の主要KPIのひとつであるテストカバレッジや「AI-nization比率」にも向上しています。
この成功を受けて、新たなプロジェクトも始動しています。成瀬さんは現在、複雑なタスクを24の「Claude Code」セッションに分割し並列処理させる「アンビエントエージェント」の開発に取り組んでいます。通常のマニュアル作業では、1ヶ月以上かかるものを、AIの活用により大幅に短縮することに取り組んでいます。
楽天とAnthropic:AI開発の未来を共に築く
パイロット導入の成功を受け、楽天は「Claude Code」活用を開発組織全体へと拡大する方針です。今後は、短時間のタスクだけでなく、複雑で長時間におよぶワークフローの管理にも「Claude Code」を活用し、開発プロセスに日常的に組み込んでいきます。
「『Claude Code』は単なるツールではなく、楽天によるAI活用の道のりの一部です」とデサイさんは語ります。楽天とAnthropic社は、「有益で、誠実で、安全なAI」の開発という共通の価値観に基づき、AIがソフトウェア開発とお客様への提供価値のあり方を責任ある形で変革する未来を共に築いています。
楽天の「AI-nization」は、企業の在り方を変革する新たなモデルプロジェクトです。数千人規模の従業員に自律的なコーディングAIを提供し、エンジニアの能力を大幅に拡張することで、技術的な制約にとらわれないイノベーション創出を実現しています。これにより、従来は困難だった技術課題にも柔軟に対応できるようになり、非エンジニアも開発に貢献できる環境が整いました。新機能の提供も、これまで数カ月かかっていたものが数日で実現できるようになっています。
楽天とAnthropic社は、AIを活用した開発の未来を共に切り拓き、より良い社会の実現に貢献してまいります。




